マネジメントゲームは繰り返しの体験型学習

 ゲームの最後は「決算書の作成」が必ず行われる。ゲーム中の賑やかな雰囲気と打って変わって、参加者は黙々と電卓を叩き、自分の会社の決算書を一生懸命作成していく。

 早苗も美樹や隣の参加者に教えてもらいながら、なんとか決算書を作成した。会社の業績は、売上200円、変動費100円、固定費115円、利益▲15円と赤字だった。

 美樹は、売上350円、変動費180円、固定費155円、利益15円と黒字だ。

 「美樹さん、すごーい! なんでそんなに売れるんですか?」

 「100期以上やっているからね」
 と美樹は笑った。

 「ひゃ、ひゃっきぃ!?」

 マネジメントゲームは繰り返しの体験型学習だ。繰り返し学ぶことにより、経営の勘どころが身についていく。美樹のように100期(100年)以上の経験者も少なくない。

 早苗は、自分の会社盤と美樹の会社盤を見比べた。美樹の会社には、「戦略チップ」と呼ばれている赤、青、黄のチップが並んでいて色鮮やかだった。

 マネジメントゲームでは、期が終了するごとに売上順に席替えをする。売上の多い美樹は上位組、売上の少ない早苗は下位組に席替えをして、第3期が始まる。

 (2期では思ったように売れなかったわ。高く売りたかったけど、入札で勝てなかったのが原因ね。3期では安い価格で勝負しよう!)

 早苗は販売方針を転換し、低価格戦略をとった。

 第3期が始まった。商品販売を「意思決定」し、プライスカードを出し合う。

 「せーの、27!」「28!」「25!」

 「やった! 売れた!」
 早苗の勝ちだ。その後も低価格で入札に臨み、次々と入札に勝っていった。

 後半にリスクカード「製品欠陥によるクレーム」を引いたときには、早苗は千葉精密の品質問題を思い出し、苦笑いするしかなかった。

 3期の経営の結果、早苗の会社の売上は250円と2期に比べて増加した。しかし、いざP/Lを作成してみると変動費150円、固定費120円、利益は▲20円だった。

 (売上は増加したのに、利益が減少している……。どういうこと?)

相馬裕晃(そうま・ひろあき)
監査法人アヴァンティア パートナー、公認会計士

1979年千葉県船橋市生まれ。
2004年に公認会計士試験合格後、㈱東京リーガルマインド(LEC)、太陽ASG 監査法人(現太陽有限責任監査法人)を経て、2008年に監査法人アヴァンティア設立時に入所。2016年にパートナーに就任し、現在に至る。
会計監査に加えて、経営体験型のセミナー(マネジメントゲーム、TOC)やファシリテーション型コンサルティングなど、会計+αのユニークなサービスを企画・立案し、顧客企業の経営改善やイノベーション支援に携わっている。年商500億円の製造業の営業キャッシュ・フローを1年間で50億円改善させるなど、社員のやる気を引き出して、成果(儲け)を出すことを得意としている。
著書に『事業性評価実践講座ーー銀行員のためのMQ会計×TOC』(中央経済社)がある。MQ会計を日本中に広めてビジネスの共通言語にする「会計維新」を使命として、公認会計士の仲間と「会援隊」を立ち上げ活動中。