「『本音で話して』は、絶対にNGです」
「自分は若手とコミュニケーションが取ってきたから大丈夫」「意識して対話の機会も持ってきた」、そんな自信たっぷりな上司や先輩こそ要注意。もしかしたらあなたのその“質問”をきっかけに、陰で周囲に「上司に詰められた……」「先輩から圧をかけられた……」と不満を漏らされていることがよくあるのだ。話題の新刊『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』で「賢い質問の方法」=事実質問術を紹介している著者であり、40年超にわたって開発途上国支援の現場で実践と観察を積み重ねてきた中田豊一氏と、数々のヒット作品を世に送り続けてきた編集者、コルクの佐渡島庸平氏が「相手と自分の関係が悪くなる対話例」について語り合う。(取材/ダイヤモンド社・榛村光哲、構成・執筆/三浦愛美)

質問の仕方を変えるだけで、反抗期の息子が話しかけてくる
佐渡島庸平(以下、佐渡島):中田さんの本は、ビジネスシーンだけでなく、育児にもすごい役立つと感じました。
中田豊一(以下、中田):実はコロナ前までは、子育てに悩む親御さん向けに「親子コミュニケーション講座」も開催していたんですよ。
佐渡島:そうなんですか? それはぜひ、僕も聞きたい(笑)。
中田:基本のエッセンスはこの本でもご紹介している「対話型ファシリテーション」です。もちろんビジネスの現場で使ってみると、部下や後輩との関係性が改善しますが、まずはご家庭内で実践してみるといいかもしれません。だいたい2,3か月目から劇的な効果が表れますよ。「反抗期真っ盛りの中3男子が、『今日こんなことあってさ』と向こうから話しかけてくれるようになりました」とか「ずっと不登校だった娘が、『一緒に英検を受けよう』と言ってきてくれた」とか、親御さんからの反応も上々です。そういう声を聴ける瞬間が一番嬉しいですね。
佐渡島:そうですか。実はこの本を読んだ時から思っていたんです。今回の本は「対話」の基礎編ですが、ぜひ応用編として「ビジネス編」と「育児編」も出してほしいなと。「部下の育成」と「子育て」でのコミュニケーション術、案外似ている部分も多いですよね。
中田:そう、実は、「人材育成」と「子育て」と「途上国の開発支援」って、根っこが似ているんですよ。どれも「共通の土台(認識)がないと対話が成立しない」という意味において。
佐渡島:そこをもうちょっと詳しいレクチャーを、お願いします。
「病は祈禱で治る」と信じる人に、ワクチンの必要性をどう説くか?
中田:「議論が平行線をたどる」という表現があるじゃないですか。でも、議論ならいざ知らず、「対話」が平行線をたどったら絶対にダメなんです。なぜなら「対話」とは、お互いが心を開き、解決の糸口を一緒に探ることだから。でも、時に相手が心の扉をパタンと閉じてしまうことってありますよね。どこまで行っても話がかみ合わず、両者の心が冷え込んでしまったり。どうしてそういうことが起きてしまうかというと、それは両者が「思い込み」で話してしまっているからなんです。
これと同じことが、職場だけではなく、子育てでも起こります。たとえ我が子でも、世代や性別が異なれば、親と子の“常識”が一致するとは限りません。そこに反抗期や思春期も重なれば……。僕も散々息子で、失敗してきました。「は、親父ダセェ」と、捨て台詞を残して去られてしまったり(笑)。
佐渡島:中田さんでもそうとは、ちょっと勇気が持てますね(笑)。
中田:かつて訪れた土地では、「病気は悪霊によってもたらされるので、治すには祈祷すればよい」と信じている人も大勢いました。そこでワクチンの効用を説いても、にわかに納得はしてくれません。それは「共通の認識(土台)」がまだ構築できていないからなので、仕方ありません。その場合は、頭から批判するのでもなく、むやみに同意するのでもなく、「それはいつのことですか?」あるいは「それは誰から教えられたのですか?」などと丁寧に聞きながら、その信念の背後にある経験や知識を確認していくようにします。
「どうも話がかみ合わないな」「相手が心を閉ざしたな」と思ったら、まずは「対話」以前に、共通の土台を確認し合うところから始めないといけないんです。これは、途上国の村人相手であれ、部下やこども相手であれ、原則は全く同じです。