なぜ日本企業は、コンセプト設計より戦術や実行段階の議論ばかりしているのか? 最新刊『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』が大きな話題を呼んでいる山口周さんがつねづねもってきたその問題意識について、コンセプトづくりを大切にしているビジネスデザイナーの濱口秀司さんと語り合います。現代の組織や改革における問題点、コンサルティング会社などに発注するときの落とし穴とは?(構成:平行男、スチール撮影:疋田千里、動画撮影:久保田剛史)

日本の経営者はコンセプトをつくる方法を知らない

山口周(やまぐち・しゅう)さん
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。 慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。 『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。神奈川県葉山町に在住。

山口周さん(以下、山口) 企業には各分野の専門家がたくさんいるわけで、そこに外部から濱口さんが乗り込んでイノベーションを実践しようとした時に、「そんなやり方でうまくいくの?」「素人が何を言っているんだ」と反発されることもあるかと思います。そういう場合の対応で、気を付けていることはありますか?

濱口秀司さん(以下、濱口) 具体的なアイデアと論理で説得するしかないですね。アイデアを「面白いじゃん」と思えると、人は動きます。一方、アイデアでは動かないけれど、論理がしっかりしていれば賛同して動いてくれる人もいる。だから常にアイデアとロジックをコンビネーションで提示することが大事。それはプロジェクトチームを引っ張る時だけでなく、経営層を説得させる時も同じです。かかわる人すべてに協力してもらうには、コンセプトをきちんと整え、方向性を決めて、それに沿ってデザインや機能、価格設定をしなければなりません。最初のコンセプトは特に重要だと思います。

山口 僕も日本企業に対するコンサルティングをやっていて感じますが、企業内で行われている議論のほとんどは戦術や実行段階に関することで、コンセプトについての議論は非常に少ない。少ないというより、事実上されてない気がするんですね。

濱口 そうですね。その理由は二つあると思います。一つは、コンセプトの作り方を知らないこと。もっと言うと、戦略すらも見たことがない……。

山口 数字化した目標みたいなものだと思われていますよね。

濱口 「コンセプト」や「戦略」の定義が人によって違うし、見たことがないから、考えようがない。でも、きちんとした定義を知って、考える方法も理解したら、日本の経営者もコンセプトや戦略を立てられるようになると思うんです。ただそれができたとしても、日本人の国民性として、コンセプトを考える力は若干弱いかなと思います。

なぜならフレームワーク力が弱いから。フレームワークとは、スコープと切り口の組み合わせなんですけど、日本人はどうしてもスコープが小さい。たとえば、デジタル化の波が来た時に、日本人はテクノロジーをどう獲得するかを考えました。これに対して、欧米の会社はフレームワークをつくった。アップルがいい例ですが、ビジネスモデルや、コンシューマーエクスペリエンスも考えて、フレームワークを組んで、儲かる仕組みをつくった。その違いがあります。

逆に日本人は、フレームが決まっているとむちゃくちゃ頑張るという強みがあります。半導体の技術なんてまさにその典型でしょう。「もっと密度を高めよう」「小さくしよう」となったら、すごいパワーを発揮する。だから日本企業も、コンセプトをつくる方法を知って、時間を割いてその方法を実行すればいい。そういうリテラシーが高まれば、レベルが一段上がると思いますね。

濱口さんをあと100人作るには?

山口 濱口さんの論文集『SHIFT:イノベーションの作法』では、多くの人の持つ一般的な考え方であるバイアスを壊すこと、「バイアス・ブレーク」について具体的なやり方を説明しています。普段、企業をコンサルティングされていて、バイアスを見つけるにはどんな方法がありますか?

濱口秀司(はまぐち・ひでし)さん
京都大学工学部卒業後、松下電工(現パナソニック)に入社。R&Dおよび研究企画に従事後、全社戦略投資案件の意思決定分析を担当。1993年、日本初企業内イントラネットを高須賀宣氏(サイボウズ創業者)とともに考案・構築。1998年から米国のデザイン会社、Zibaに参画。1999年、世界初のUSBフラッシュメモリのコンセプトをつくり、その後数々のイノベーションをリード。パナソニック電工米国研究所上席副社長、米国ソフトウェアベンチャーCOOを経て、2009年に戦略ディレクターとしてZibaに再び参画。現在はZibaのエグゼクティブフェローを務めながら自身の実験会社「monogoto」を立ち上げ、ビジネスデザイン分野にフォーカスした活動を行っている。B2CからB2Bの幅広い商品・サービスの企画、製品開発、R&D戦略、価格戦略を含むマーケティング、工場の生産性向上、財務面も含めた事業・経営戦略に及ぶまで包括的な事業活動のコンサルティングを手掛ける。ドイツRedDotデザイン賞審査員。米国ポートランドとロサンゼルス在住。

濱口 一番効率がいいのは、その分野の専門家を複数集めて「どんなアイデアがあるんですか?」とか「それはどうしてうまくいかなかったんですか?」とかいろいろ聞いて、しゃべってもらうことです。そうすると、彼らが何に縛られているかが見えてきます。

そして重要なのは、誰かが新たなアイデアを出した時に、「それは本当にバイアス・ブレークをしているのか」などと問わないことです。ビジネスは真理を追求するものではなく、限られた時間の中でできるだけ良い解を出すことが求められるものなので、アイデアがあって5分後にはプレゼンしなきゃいけなかったら、そのアイデアでいけばいいんです。

山口 ベストエフォートでいいってことですか?

濱口 ベストエフォートでOKです。たとえば、専門家が2時間考えた。その段階から「このアイデアが正しいかどうか」と議論をし始めると、プロセスが止まるんです。2時間考えたら、それが上手なのか下手なのかを気にする必要はなくて、そのアイデアでプロセスを進めていけばいい。ただし、それを実装するための設計は重要で、よく考えて淡々とやる必要があります。

山口 濱口さんのようにバイアス・ブレークができる人を、あと100人つくるには、どうすればいいでしょうか?

濱口 世の中にバイアス・ブレークを実現している人はたくさんいますよ。いわゆる天才といわれる人は、無意識にやっているかもしれない。一方で、意識的にやっている人もいます。たとえばiPS細胞の山中(伸弥)先生とか、青色発光ダイオードでノーベル物理学賞を受賞した研究者の方たちとか。彼らは他人が賭けないところに賭けて、大きな発見をした。あれはまさにバイアス・ブレークです。

ビジネス界においても、成功している企業の裏側ではバイアス・ブレークは絶対に行われています。問題は、何らかのバイアスをブレークして、イノベーションを起こして事業を大きくすることに成功した人が、そのまま事業に入って埋もれてしまうことです。そこから、もう1回イノベーションを起こそうとする人って、かなり稀有です。

山口 才能がある人を、社会資本として活用できていないということですね。

濱口 活用できていない。だって一度イノベーションを起こして儲かって事業も楽しいし、ってなったら、もう1回イノベーションを起こそうなんて思いませんよ。僕がなぜ次から次へとやっているかというと、病気だから(笑)。ただ、たくさんやりたいからなんです。そういう人は世の中では結構少ないです。

僕みたいな人を100人に増やすにはどうすればいいかというと、それは簡単で、職業として成り立たせればいい。職業として、ちゃんとお給料がもらえて生きていける。そういう状態にすればいいんです。今から20年とか30年前で、コンセプトをつくってお金をもらえる職業なんてありませんでした。でも最近はもらえるようになってきました。僕のやっているビジネスデザインも、きちんと職業として成り立つようになったら、みんなやり始めると思うんですね。

実際に、僕の会社に入社したいという人がものすごく増えています。だからあと何年かすると、僕と同じような人が100人とか200人とかになると思います。ただし、結構大変ですけどね。コンセプトから戦略から実装から全部やらなきゃいけないし、ナレッジも経験もいるし。

山口 結果もはっきりと出ますからね。

結果を出せない外部アドバイザーが批判されない理由

濱口 世の中には、イノベーションを謳っておきながら結果を出さないコンサルティング会社やデザイン会社はいっぱいありますよ。企業がプロジェクトを外部に委託する時に、どうやってパートナー企業を選ぶのがいいか。本当なら、同じプロジェクトを複数の会社にやらせてみて、結果を比較しないといけないんです。

でも、それをやろうと思ったら、2倍、3倍のお金がかかってしまう。だから1社に決めて発注するしかない。そうするともう、結果についてとやかく批判できないんです。批判してしまうと、「それは、その1社を選んだお前が悪いんや」って社内で言われてしまうから。そういう結果につながった原因を批判しにくい構造なんですよね。

イノベーションを起こすという触れ込みの会社でも成果を出せない背景を語りあう山口さん(左)と濱口さん

山口 イノベーションを起こします、という触れ込みの会社でも、結果を出せないというわけですね。

濱口 「あの会社に頼んだけれど、何も生まれなかった」と相談にこられるケースは多いですよ。
僕自身も松下電工(現パナソニック)に在籍していた頃、テストをしたことがあります。シリコンバレーのデザイン会社5社に同じプロジェクトを依頼して、競わせたんです。ものすごいコストをかけて。でも、出てきた結果は全滅。5個投げたらどれか当たるだろうと思ったら、どれもダメでした。

山口 5打数0安打だったんですね。

濱口 そのときに、失敗を批判できない構造が社内にあるから、結果を出せない外部のアドバイザーも存在しつづけられるんだ、と気づきました。僕と同じような実験をやった人が、もう1人います。あるグローバル企業の副社長も僕と同じように、同じようなプロジェクトを連続で、シリコンバレーのいろんな会社に投げたんです。で、結局、同じ結論に達するんです。「どの会社のアウトプットにも、イノベーションや戦略はなかった」と。

その後、僕がZibaにいた時に、その副社長からプロジェクトの依頼があった。コケかかっていたプロジェクトを、僕が引っ張って大成功させたんです。そうしたら彼は「本物のイノベーションと戦略を、シリコンバレーで初めて見た」と言ってくれました。

山口 そんな濱口さんの能力を他の人に移設するのは難しいかもしれないですよ。

濱口 難しいわけじゃないんですけど、10を教えようとして、2.5まで身につけたら、みんな途中で辞めちゃうという難しさはありますね。それだけで十分に、独立して食っていけるようになるから。そこは悩ましいところです。

山口 なるほど…難しいところですね。今日はいろいろ伺えて勉強になりました。ありがとうございました。

濱口 こちらこそありがとうございました。