そのとき顧客が盗まれた現金は、銀行に補償してもらえなかったというのです。理由は、強盗が入ってきた瞬間、銀行員にとってすでにその現金は窓口の向こう側に置いてあり、顧客の側にあったからです。これが、欧米流のドライなサービスアグリーメントです。

 ところがこの考え方は、日本ではまず通用しないでしょう。「置き配」も同様で、「荷物が雨に濡れた」「へこんでいた」「置き方が悪かった」といった、アメリカでは発生しないようなレベルでのクレームの処理が増加すると思われます。さらには「損害を受けた商品がレアものだった」というケースにおいて、キャンセル・返金では気がすまない消費者が必ず出てくるでしょう。つまり、「置き配」で配達した後の対応コストが増加する可能性が高いのです。

アフターコストと評判リスク
を回避する唯一の方法とは

 そしてもう1つ、そのことによる評判リスクが顕在化するはずです。クレームをするだけならまだいいのですが、直接クレームをせずにSNSで「いかにひどい目に遭ったか」を世間に拡散する人が、その倍は出てくるでしょう。

 ほんの少しの確率、可能性としては1000分の1程度のそうしたトラブルが万一起きると、それがあたかも「置き配」全体のサービス水準であるかのごとく、悪い評判が広まってしまうわけです。

 運送会社は、そうしたアフターコストと評判リスクまでを考慮した上で、「置き配」と「宅配」のどちらの費用対効果が高いのかを、考える必要が出てくる。多治見市の実験を通じて、アマゾンはそんなことを経験することになるかもしれません。

 最後に、「赤信号、みんなでわたれば怖くない」という格言をご紹介します。もし実験で「このままでは費用対効果が悪い」ということになったら、アマゾンはそこを無視して、逆にライバルである全てのインターネット通販会社、すべての運送会社に「置き配」を勧めてみてはどうでしょうか。「あれは滅茶苦茶、配達員の生産性が上がるんだよ」と。

 なぜなら、もし世の中の業者がすべて「置き配」サービスを手がけるようになれば、消費者からのクレームなど、怖くなくなるはずだからです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)