『週刊ダイヤモンド11月2日号の第1特集は、「中高一貫 序列解剖」特集です。中学受験本番まであと数ヵ月、志望校選びも終盤戦に突入しています。大学入試改革が控えている上、それぞれに特色のある学校や公立中高一貫校の台頭などもあって、学校選びは格段に難しくなっています。そこで、歴史を踏まえた上で中高一貫校の最新序列を描き出し、今後有望な学校を探ってみました。
 

学区制度の変更で公立高校が凋落
代わって国立、私立が台頭

 盛者必衰のことわり──。この有名な言葉が意味するところは、この世は無常であり、勢いの盛んな者もついには衰え滅びること。歴史をひもとけば、学校を取り巻く環境にも、この言葉がぴたりと当てはまる。

 かつて優秀な生徒は、地域の最難関の公立高校に入った後、東京大学を筆頭とする難関大学に進学するのが常だった。

 例えば、1950年代の東京都に住んでいたとすれば公立中学から都立日比谷高校に進学し、東大を目指すといった具合だ。当時、こうした〝黄金ルート〟に疑問を持つ人はいなかったはずだ。

 ところが、この頃から全国的に学区制度やグループ選抜制度が導入されていく。特定の高校に優秀な生徒が集中することを避けるために始まった施策だ。
 これぞ、まさに悪政だった。その後、坂を転げ落ちるように、公立トップ校が没落していく。

 勉強に励んでも進学先の高校が自動的に割り振られてしまうからだ。そうした生徒たちが次に選んだ先は、国立大学の付属校や私立の中高一貫校だった。

 その後、80年代に入り、私立の中高一貫校を舞台とした中学受験ブームが巻き起こる。それを仕掛けたといえるのが、公立高校の没落を商機と捉えた大手学習塾だ。

 男子御三家や女子御三家といった具合に、学習塾がさまざまな学校群をひとくくりにすることで、中学受験熱をあおったのだ。その熱は中間層にまで広がり、私立の黄金期につながっていく。

 片や、国立の学校も恩恵を受けた。元々いた優秀層が公立高校に行かず、そのまま残ったことで進学実績が上がったからだ。

 受験熱の高まりとともに、私立や国立を筆頭にした序列が確立。国立であれば、筑波大学附属駒場中学校であり、私立であれば、男子校の開成中学校、女子校であれば桜蔭中学校という具合だ。

 こうした流れは首都圏のみならず各地で起きている。それぞれの栄枯盛衰についてはエリア別にまとめてあるので、ご覧いただきたい。

10、20年後には筑駒、筑附が凋落し
公立中高一貫校の時代が来るか

 では、今後も私立や国立が覇権を握り続けるのか。明快に言い切れるものではないが、答えは否と言わざるを得ない。

 すでに各地の自治体は公立の復権に向けて学区制度を撤廃、公立中高一貫校の設立に向かっている。

 日比谷が東大合格者数で50人を超え、都立復権と騒がれたのが2016年のこと。日比谷以外の実績はさほどでもなく、まだ復権と言い切れる段階にはないが、大きな一歩となったのは間違いない。

 とはいえ、つぶさに見れば、都立をはじめとした公立復権の〝萌芽〟はそこかしこにある。その一つが、公立中高一貫校の台頭だ。

 2000年代前半に、小石川中等教育学校を筆頭に11校が中高一貫校化し、快進撃を続けている。興味深いのは、「小石川に入学した後に高校から日比谷に行く生徒が増えていることだ」と、ある教育関係者は言う。かつての黄金ルートをほうふつさせる動きだ。

 そして、公立王国の千葉県において08年、県立千葉高校が中高一貫校化した。2番手校や中堅校が中高一貫校化するのが一般的にもかかわらず、県千葉が動いたことで教育関係者の間に衝撃を与えた。

 また、21年には茨城県トップ校の水戸第一高校と土浦第一高校が中高一貫校化する。今後、他の地域でもトップ校の中高一貫校化は広まる可能性が高いといえよう。

 日比谷をはじめ、本格的に公立が復権してくれば、「筑駒や筑波大学附属中学校のような国立が厳しくなってくるだろう」とある教育関係者は言う。というのも、元々この2校は全盛期の日比谷の下位に位置しており、先述した通り、日比谷が没落したために実績が上がったという経緯があるからだ。

 そうした中で、興味深いのは、「筑駒の受験者層の一部が小石川に流れている。理数系の教育に定評のある小石川を選んだのではないか」(同)という動きだ。

 かつて教育に定評のあった公立が、今度は3年間ではなく中高一貫校として6年間の教育内容を引っ提げて、中学受験市場に攻勢をかけてくる。無論、そう簡単な話ではないが、20年後には筑駒が没落し公立が復権したとしても、歴史を振り返れば、これもまた必然といえるのかもしれない。

最新版 220中高一貫校の「序列マップ」
「校風マップ」で教育方針の違いを図解

『週刊ダイヤモンド』11月2日号の第1特集は、「中高一貫 序列解剖」特集です。かつて県のトップ校から難関国立大学へ進学するというのが王道でしたが、今では、私立の中高一貫校から難関国立大学に進学というのが当然のようになっています。

 そうしたルート変更はなぜ起こったのでしょうか。また、今後同じようなことが起こる可能性はないのでしょうか。

 結論をいえば、変わる可能性は大いにあります。そして、その〝萌芽〟がすでにあることは、先に述べた通りです。

 パート2では、北海道から九州まで各エリアの栄枯盛衰、ライバル校の戦い、今後有望な中高一貫校について詳細にレポートしています。とりわけ、中高一貫校がひしめく首都圏と関西については、「序列マップ」を用意し、偏差値だけで分からない、総合難度やライバル関係、さらに校風や併願パターンに至るまで一覧できるように図解しています。
 
 他にも、塾幹部50人が明かす「5つの法則」といったコンテンツも用意しています。中学受験の本番まであと数ヵ月。最終的に志望校を絞り込むのに役立てていただければ幸いです。


ダイヤモンド編集部・藤田章夫、西田浩史