韓国の家計債務の対GDP比率(2019年第1四半期)
韓国経済の減速が目立ち、デフレの懸念すら台頭してきた。輸出や設備投資中心の不振が消費など内需に波及していくと総崩れになってしまう。
心配なのが右肩上がりで拡大を続けている家計債務だ。今年初めには対GDP比で93%という、サブプライム危機前の米国に匹敵する水準に達した。増加のペースも懸念材料で、2008年末には73%にすぎなかった。可処分所得対比で見ても、ここ10年で117%から158%に急拡大している。
金融当局は家計債務の増加にブレーキをかける施策を17年から実施している。与信判断の際の債務返済比率の縛りを厳格化したほか、複数の住宅を保有する家計に対する値上がり益課税を導入し、ソウル市内で住宅投機防止の重点地域を指定した。この結果、住宅価格や家計向け与信の減速といった効果が徐々に見られている。
高水準の債務は成長の重しとはなるが、今後一段と景気が悪化しても、家計債務危機に陥る可能性は現時点では小さいとみている。銀行の預金/貸出比率を見ても過度なレバレッジはかかっていない。債務は高所得で信用スコアの高い家計に集中しており、ショックへの耐久性は高い。高リスクの借り手についても貸出の9割近くは担保でカバーされている。何よりも低金利環境は当分の間続きそうだ。
ただ、気になるのは中小企業向けローンの中に家計が事業主として受けた借入が含まれていることだ。韓国では高齢者に対する年金や社会保障が手厚くなく、40~50代で退職した労働者がローンを組んで簡単な飲食店などを開業するケースが多い。そうした素人経営の多くが激しい競争の中で失敗し、債務不履行に陥っている。
アジア危機以降、韓国経済をけん引する財閥企業は金融市場から直接資金調達を行い、韓国の銀行は残された中小企業と家計向けビジネスで食べていくしかなくなった。そうした収益性の限られる市場で無理をすると、03年のクレジットカード危機のような金融システムの混乱を招いてしまう。韓国の銀行にとってのアキレス腱ともいうべき家計債務の動向から目が離せない。
(オックスフォード・エコノミクス在日代表 長井滋人)