シゲさんにとって安い金額ではなかったのですが、近隣店舗の相場を考えると破格の値段でした。自分のお店を持つことに興味があったことと、売り上げが悪くないこともわかっていたため、まわりに借金をして開業 しました。

 運よくお店を買い取ったすぐ後、近くにとても大きなオフィスビルの建設が始まり、完成してから街のサラリーマン人口が2000人近く増えたこと、シゲさんが営業手腕を発揮したこともあり売り上げは右肩上がりで、借金も払い終えとても繁盛しているみたいでした。

 そんな折、シゲさんから急に相談したいことがあると言われ営業前のお店に呼ばれました。

 お店はカウンター席が8席に4人掛けのテーブルが2つ。どちらも木目調で統一されており、だいだい色がかった照明がとても落ち着いた雰囲気を演出しています。そして奥に6人掛けの座敷席が2つあり真ん中の仕切りを外せば10人以上も対応できるようになっています。

店の前に出したゴミが荒らされ
団体の予約のドタキャンが続き…

 テーブルに座るなり普段は明るい先輩が疲れた顔で話し始めました。

「実は営業時間後にお店の前にゴミを出して帰るんだけど、最近それが荒らされていて翌日掃除が大変なんだよ。最初は猫やネズミの仕業かなと思って、でかいポリバケツを買って、その中にゴミ袋を入れてふたをするようにしたんだけど、それも倒されて中身をぶちまけられているから、絶対に人の仕業なんだよね。

 それだけじゃなく週末に団体さんのドタキャンが続いていて、これも悪質ないたずらなんじゃないかと思うんだ。うちはお客さんとの信頼関係でやっているから、キャンセル料は特に取っていないんだけど、コースの予約だと料理を準備してしまっているから当日いきなりキャンセルされると食材は無駄になるし、広い席が急に空いても飛び込みで団体が来ることなんてほとんどないから、カウンターやテーブルが埋まっている時は仕方なく2名様を広い座敷の席に案内することになったり。大きなお店じゃないから大変なんだよ…。しまいには食べログで店長のヒゲが濃いとか書かれてるし。片岡、犯人捜し手伝ってくれない?」との相談でした。

 それを聞いて私は「シゲさんのこと恨んでる人間なんて山ほどいますから難しそうですね~。昔4股をかけていた女性のうちの誰かじゃないですか」と悪態をつくと、「バカ!バイトの女の子が引いちゃうだろ。それに3股だよ!3股!」と反論してきました。

 私は続けて「この中でシゲさんを恨んでる人はいますか」と仕込み作業をしているお店のスタッフさんたちに聞くと、ノリのいいスタッフさんたちは皆手を挙げました。それを見て「バカヤローお前ら全員クビだクビ!」とシゲさんが言って皆笑いました。