液晶テレビ、液晶パネルの両事業で急成長したシャープが、2009年3月期に1258億円もの巨額最終赤字に転落した。片山幹雄・シャープ社長は、パネル事業の方針転換に踏み切り、純国産主義と決別して、生産から販売までを消費地域内で行なう“地産地消”モデルの構築を急ぐことを明らかにした。従来のモノづくりを根幹から覆す決断に死角はないのか。(聞き手/『週刊ダイヤモンド』編集部 浅島亮子)

シャープ片山幹雄社長が明かす新戦略<br />「中国液晶合弁でローコストを実現すれば、アジア勢に必ず打ち勝てる!」
かたやま・みきお/1957年生まれ、51歳。81年東京大学工学部卒業後、シャープ入社。2005年常務液晶事業統括、06年専務AV・大型液晶事業統括兼AVシステム事業本部長として、“液晶のシャープ”の基盤を固めた。07年4月、49歳という業界では異例の若さで社長に就任。(撮影/住友一俊)

──“地産地消”とは何か。

 ある製品の消費地において、部材調達から生産、販売といったすべての工程を完結させるビジネスモデルのことだ。これまでは、基幹デバイスの生産工程を日本国内に限定してきた。今回は、この考え方を液晶パネルに適用する。いわば、現地生産である。

──ここへきて、現地生産を急ぐのはなぜか。

 言うまでもなく、現地生産の流れは、今に始まったことではない。日本の電機産業の歴史を振り返れば、1985年のプラザ合意以降、猛烈な円高局面となり、為替リスクを回避しようと、電機メーカーは白物家電を中心に現地生産を加速させた。

 今回は従来、例外的に国内生産を貫いてきた液晶パネル生産の前工程(マザーガラスから液晶パネルを切り出すなど、巨額の設備投資を伴う工程)まで海外移転することを決めた。

 その目的は、3つある。

 第一に、コスト競争力を高めるためだ。そもそも、液晶パネルは現地生産されるべき製品だ。大画面化の進展で、輸送コストはさらに高まった。さらに、液晶テレビの価格下落は急激に進行するため、生産地から消費地までの輸送期間が長くなればなるほど、在庫リスクが高まる。

 第二に、昨今の経済危機で円高リスクが顕在化したためだ。前工程への投資は数千億円規模と大きいが、これを従来、日本国内に集中してきたのだ。たとえば、中国にはモジュール(部品群)を輸出、現地で加工組み立てしてきた。

 第三に、亀山工場(三重県)の有効活用のためだ。10月には、第一〇世代の堺新工場(大阪府)が稼働する。堺では最先端技術を駆使し、大画面テレビ市場を開拓する。これに対し、亀山の第六世代工場は“地産地消工場”の役割を担い、生産ラインの海外技術移転を進める。