小池知事に勧めたい
「高倉健」みたいな対応

 そのあたりをご理解していただくには、今回のマラソン・競歩の結果と、熱中症リスクがどういうことになるかというシナリオを元にすればわかりやすい。非常にバックリとしたシナリオだが、大きな方向性としては以下の4つに分類されていく。

シナリオ1.札幌で日本がメダルラッシュ/東京も選手・観客の熱中症被害ゼロ
シナリオ2.札幌で日本がメダルラッシュ/東京では選手・観客の熱中症被害が問題になる
シナリオ3.札幌で日本はメダル獲得ならず/東京で選手・観客の熱中症被害ゼロ
シナリオ4.札幌で日本はメダル獲得ならず/東京で選手・観客の熱中症被害が問題になる

 まず、シナリオ2や4になってしまった場合、あの「合意なき決定」発言が思いっきりブーメランになることは説明の必要はないだろう。「おいおい、東京都はこんなひどい場所で選手を42.195キロ走らせようとしていたのかよ」と国際的な批判が上がる。被害が大きくなれば、東京開催を最後までゴリ押しした小池氏は「犯人」扱いされ、世界のアスリートや、外国人観客の安全よりも、「都民のエンタメ」を優先させた自己チュー知事というそしりを受けてしまう恐れもあるのだ。

 シナリオ1になった場合、大きなリスクはないが開催都市の首長としてかなり格好悪い。「結果として札幌に変更してよかったね」と日本中が盛り上がる中で、小池氏は最後まで「東京」に執着していた手前、「札幌開催で成功でしたね」なんて浮かれることができない。それを言った途端、単に二枚舌の調子のいい人になってしまうのだ。

 また、3も同様で、メダルを逃した選手たちの傷口に塩を塗るようなことになってしまう。もしメダルが取れなければ、小池氏のIOC批判が蒸し返されるのは間違いないが、選手にとってはこれほど苦痛なことはない。今のスタンスを踏襲して「日本代表の調子が悪かったのは札幌開催になったからだ」という言い訳をすればするほど、選手側がよく主張する「アスリートは決められた条件のなかでベスト尽くす」というメッセージと齟齬が生まれてしまう。

 要するに今回、小池氏がIOCに中指をたてたことは、短期的には「日本代表ファースト」のような援護射撃になっているが、長期的には、札幌という新たな条件の下で戦った選手たちの背中に銃弾を浴びせていることになっているのだ。

 このように、「東京都は、当初の計画通りに『都内でマラソン・競歩開催』が正しいと一歩も引かなかった」というスタンスを貫くことは、どう転んでもあまりいい結果に繋がらないのだ。

 では、どうすればよかったか。筆者がもし小池氏にアドバイスできる立場だったら、おすすめするのは、任侠映画に出てくる高倉健さんみたいな対応だ。つまり、「いろいろ言いたいことはあるが、大義を前にそれを黙ってグッと飲み込んで今は堪え忍ぶ」という方針である。