『トイレは世界を救う』
『トイレは世界を救う』(ジャック・シム著、近藤奈香訳)

 そのために私たちは、屋外排泄が行われている村の中である実験をしたことがあります。まずは、村の人がどこで排泄しているかを地図上にマークします。そして、村の中にいるハエがどれくらい飛ぶかを地図上で可視化させたあと、時を見計らって村の人が集まる場所に、ご飯がのったプレートと糞尿がのったプレートを置きます。すると、あっという間にハエが両方に止まってご飯が真っ茶色になります。その様子を村中の人に見せて、どんな少量でもハエによってご飯に糞尿がつき、口にする可能性が高いことを認識させるのです。

 それによって、「トイレを作らなきゃ」と思わせて、自らトイレを作ってもらう方が効果的で、トイレの利用も持続して、文化が根付くようになります。

 また、「うわさ話」と「近所からの評価」の活用もトイレの普及には効果的です。私の育った村では、床が土の家は床がコンクリートの家庭から見下げられていました。そこで、近所の人にバカにされたくない気持ちがとても強いため、この家の子どもたちは働き始めるとまずは床をコンクリートにしたものでした。

 つまり、そうしたプライドをトイレの普及にも利用するところに秘訣があります。「素晴らしいトイレが家にある家庭はハイソ」だという価値観を植え付けて、そうなりたいと思う人たちを増やしていくのです。そのために、カンボジアでは村でうわさ好きな女性の力を活用して「あの人の家にはすごいトイレがあるけど、あそこの家にはまだトイレがないのよ」と言ってもらったりしていました。うわさ好きの女性こそ、最強の営業ウーマンなのです。

――トイレ普及の取り組みをされて20年近く。今後はどのような課題に取り組む予定ですか?

 トイレ問題は勢いよく解決に向けて進んでおり、2030年までには世界のほとんどの人にはトイレが行き渡るだろうといわれています。一度トイレを使うことに慣れた人は、屋外排泄に戻ることはないため、トイレ市場はより高級志向に進むでしょう。

 そんななかで今最も大きな課題になっているのが下水処理、汚物による河川の汚染問題です。現在、世界の14%の人たちはオフグリッドの下水処理などのインフラを必要としていますが、大学などでこれらを学ぶ専門家はあまり多くありません。今後はそういう人材を育てていくことが重要でしょう。

 われわれは1日6~8回トイレに行きますし、トイレが1つの文化といっても決して大げさではありません。QOL(クオリティー・オブ・ライフ)を構成する1つとして、トイレの話が気軽にできる社会になることを願っています。