新喜皮革の新田芳希専務
新喜皮革の新田芳希専務

 新喜皮革でも胴体部分の馬革を生産しているが、それらを含めて革製品のなめし工程には通常クロムという化学薬品が使われる。人体には無害で、短時間でなめすことができるので効率的だからだ。

 一方、コードバンをつくるためには植物由来のタンニンを使うしかない。新喜皮革ではミモザの樹皮エキスを用いて時間をかけてなめす。クロムなめしはドラムに皮と薬品を入れて回転させながら1日で完了するが、タンニンなめしは木製のピット槽に1ヵ月間漬け込まなければならない。その代わり、タンニンはゆっくりと皮の繊維を収縮させ、丈夫で張りがあり、経年変化で深みが増す(エイジング)効果をもたらす。

 この天然なめし加工を施した革を、新喜皮革では他と区別するため「本ヌメ革」と呼んでいる。製革完了までにクロムなめしによる一般的な皮革なら1ヵ月ですむところを、コードバンは約10ヵ月もかかる。

「馬の臀部内にあるコードバン繊維は緻密で、タンニンを浸透させるのが難しいのです。なめした後、この繊維層が裏側からきれいに出てくるまで削り出していくのですが、そこに職人の技が必要になります。季節ごとに温度も湿度も違うので、すべての工程で手を抜けないのがコードバンなのです。新規で参入しようと思ってもまず不可能でしょう」

人手不足が最大の課題
一人前までは10年以上かかる

 現在、職人は12名おり、ベテランだけでなく、コードバンに魅了された若者も職人を目指して勉強中だ。

 当然ながら、同社への注文は途切れることがなく、現在、1年先まで予定が入っている。新田は「もう少し、人がいれば供給を増やすことができるが、1人前になるには10年以上かかるので、そう簡単にはいかない。人手不足が最大の課題です」と嘆く。

 新田は小さい頃から、家族の中で後継ぎとみなされ、中学生の頃には自分でも自然に新喜皮革を継ごうと思った。