私生活動画撮影で月20万円
走り始めた社会実験を止められるか
株式会社Plasmaの「Project Exograph」というプロジェクトが、主にネット空間で関心を集めている。プロジェクトの内容は、「参加者は自分の住まいに死角なくウェブカメラを設置させ(浴室を除く)、プライベート情報を1カ月間にわたって収集させ、対価として20万円を受け取る」というものだ。
11月8日に公開された同社のプレスリリースでは、プロジェクト内容が「生活保護費と同額支給の代わりに、プライベート情報を全て収集・マネタイズする社会実験」と紹介されていた。その後、「生活保護」という用語の使用が問題視されたり、「貧困ビジネスではないか」という批判を受けたりしたことから、報酬額は東京都の単身者の生活保護費(生活費+家賃補助)の合計(約13万3000円)から20万円へと引き上げられた。
11月25日には、選考された参加者5名の住まいでの動画情報収集が始められる予定となっている。しかし11月17日には、応募者の一部のメールアドレスが「Bcc」ではなく「Cc」で送信されて漏洩するというトラブルも発生しており、波乱含みの状況だ。しかも、同社が“社会実験“という用語で意味している内容は、非常に幅広い。
財政論の面から見ると、社会保障支出は、負担だからといって簡単に削減できるものではない。一定レベルの社会保障は、治安や公衆衛生を悪化させず、まさに「社会」を「保障」するために必要不可欠だ。しかし、もしも社会保障そのものから社会保障の原資を得ることができれば、維持が容易になることは間違いない。「そのための“社会実験“」という見方も可能だろう。
同社社長である遠野宏季氏は、ネットで寄せられた質問に対して、「命の切売りとデータの切売りのどちらが倫理的に問題あるか色んな意見を聞きたいです」と回答している。この回答からは、「社会保障と財源に関する意識もあるのではないか」と察せられる。いずれにしても、現段階では“社会実験“だが、元ICT技術者でもある筆者は、心の中に数多くのわだかまりを抱いてしまう。私なら、今のこの段階で実行に突っ走る勇気は持てない。