2019年度の社会保障給付費(対GDP比)
財政再建の「本丸」は社会保障改革だが、政府は「全世代型社会保障検討会議」を設置し、全世代が安心できる制度改革の方向性を議論し、来夏までに最終報告をまとめる方針だ。その際、政府が改革議論の参考に位置付けるのは、2018年5月公表の「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」だが、この推計を前提にするのは一定のリスクを伴う。
まず、この政府の見通しでは、高成長と低成長の2ケースで社会保障給付費を推計している。このうち低成長のベースラインケースでは18年度で121.3兆円(対GDP比21.5%)の社会保障給付費が、25年度で約140.0兆円(対GDP比21.8%)、40年度で約190.0兆円(対GDP比24.0%)となる推計だ。40年度までに対GDP比で2.5%ポイント(=24.0-21.5%)しか伸びず、改革を急ぐ必要はないとの声もあるが、この見解は甘い。
19年度の社会保障給付費は対前年2.4兆円増の123.7兆円だ。また、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(19年7月版)では、19年度のGDPは559.9兆円なので、19年度の社会保障給付費(対GDP比)は22.1%(=123.7÷559.9兆円)となる。これは、既述の政府見通しである25年度の予測値(21.8%)を既に上回っている。
なお、政府の見通しのベースラインケースでは、28年度以降の名目GDP成長率を1.3%と見込むが、1995年度から18年度の平均成長率(0.39%)の約3倍もある前提だ。筆者の試算では、19年度以降の成長率の前提を0.5%に下方修正し、社会保障給付費の対GDP比を算出すると、40年度の値は28.0%に急上昇する。
消費税の引き上げで対GDP比約0.5%の税収増となるため、給付費(対GDP比)が18年度から40年度で6.5%ポイント(=28.0-21.5%)も増加すると、現在の財政赤字圧縮分を除いても、消費税率換算で約13.0%分の増税に相当する財源が必要となる。
政治や我々国民は「厳しい現実」を直視し、引き続き改革を進める覚悟が求められている。
(法政大学経済学部教授 小黒一正)