そして、ここまでハードルが下がってしまうと、中国共産党にとっての「不測の事態」が起こりかねなくなる。現在、親中派とみられる人たちも、民主化支持の世論を気にして、中国共産党と距離を置いているといわれる。

 仮に22年の次期行政長官選挙の際にそのような状況になったら、選挙委員会の中から、親中派・民主派双方の幅広い支持を得られるような、開明的なリーダーが立候補して行政長官に当選し、中国共産党が香港の行政をコントロールできないという事態も起きかねない。だから、中国共産党は、そのきっかけとなる懸念がある今回の区議会選の実施を嫌がったのだといえる。

香港の状況を劇的に変えられるのは
「財界」である

 しかし、それはあくまで中国共産党にとっての「不測の事態」であり、民主派にとっては「希望的観測」にすぎないだろう。リアリスティックに考えれば、香港の状況を劇的に変えることができるのは、「財界」である(第223回・P6)。

 財界が民主派に寝返れば、行政長官選挙の「選挙委員」は民主派が圧倒的多数派になる。つまり、民主派の候補者しか当選できない制度に代わってしまうことになるのだ。

 だが、アグネスさんに聞いてみたが、財界の動きは「分からない」という。財界について話題を振っても、反応が鈍い。おそらく、現在のところ民主派と財界の間に接点はないのだろう。財界は完全に親中派とみなされているので、民主派が安易に接触すると、動きが筒抜けになってしまう恐れがある。信用できないのだろう。

 日本的な感覚で考えれば、民主派の若者の中に財界と交渉できるような「寝業師」はいないのかと言いたくなる。おそらく、いないのだろう。リーダー不在の「水の革命」(*)の難しさが露呈しているといえるのかもしれない(第214回)。

*香港出身のアクション映画スターであるブルース・リーが語った格言「Be Water(水のようになれ)」にちなんだ、今回の香港の民主化デモの通称。リーダー不在で臨機応変にデモ活動のかたちを変えることに由来する。