そうではなく、このポスターのような状態になるのは、不慮の事故か、脳卒中のような突然の病気による可能性が高いでしょう。病気が発症してこん睡状態に陥り、その時間が一定期間続く――。そのような状態で、一定数の患者は外部から「植物状態」と診断されても、本人には意識があることが知られています。おそらくポスターの製作者は、そうした知見を基にポスターの場面設定を考えたのではないでしょうか。

 だから病室に来た父親が、植物状態の小籔さんに必死に声をかけるのではなく、むしろ隣の患者に話しかけているのでしょう。

リスクを感じていない一般の人向け
「お笑いタレント」を起用するのもあり

 要するにこのポスターは、がんを告知され、そのステージから一定の覚悟もできている患者とその家族の姿を描いたものではなく、そうしたリスクをまだ感じていない一般の人たちに対して、「関係ないと思わないで、人生会議を始めたほうがいいですよ」ということを啓蒙しようとしたポスターなのだと、私は当初から捉えていました。

 がん患者の支援団体は、このようなポスターが病院に貼られることを危惧しています。私もこのポスターを病院、特に入院病棟に貼るのは配慮が足らない行為だと思います。しかし、かかりつけの医院や、市役所、一般の職場に貼るのであれば、許容すべきPR活動だとも思います。ポスターが悪いのではなく、「貼る場所を考えることが重要だ」という考え方です。

 厚生労働省によれば「誰でも、いつでも、命に関わる大きな病気やケガをする可能性があります」という前提で、「命の危険が迫った状態になると約70%の方が、これからの医療やケアなどについて自分で決めたり、人に伝えたりすることができなくなるといわれています」と問題提起をしています。

 そのために、もしものときにどのような治療を望むのかについて、予め家族と話し合っておいたほうがいいと考える人の割合は、厚生労働省の調査によれば65%に達するそうです。しかし、そのことについて詳しく話し合っている人は全体の3%、意思表示の書類を作成している人は8%と、何かを実行に移している人はごくわずかという実情があります。