自宅でドリップコーヒーを淹れたいけど、淹れ方がわからない。見よう見まねで始めてみたけど、美味しく淹れられない。そんな人は少なくないはずだ。どんなに高価で、質の高い豆を買っても、淹れ方が間違っていれば、美味しく淹れられないのがコーヒーの難しさ。そこで『ワールド・バリスタ・チャンピオンが教える 世界一美味しいコーヒーの淹れ方』を刊行したばかりの井崎英典氏に、美味しいコーヒーを淹れるコツについて聞いてみた(聞き手:編集部/撮影:京嶋良太)。

日本人唯一のワールド・バリスタ・チャンピオンである井崎英典氏

ド素人でも、コーヒーショップより美味しく淹れる方法

――これから本格的にコーヒーを淹れたい人は、何を意識すればいいですか?

いきなり感覚的に淹れるようとせず、まずは「数字」をもとに考えるクセをつけてみてください。数字ベースで考えた方が「再現性」は圧倒的に高くなります。

例えば、たまたま感覚的に淹れて美味しくなっても、なぜ美味しく淹れられたのかの理由がわからなければ、再び同じように淹れることは難しいはずです。

ざっくりした感覚で淹れていても、いつかは理想の1杯を淹れられるかもしれません。でも、時間がかかりますし、普通の人はその前に面倒くさくなってしまうと思います。

美味しいコーヒーを淹れるには、計画、実行、振り返りと、質の高いPDCAを回すのが何より近道です。でも、感覚で淹れていると、振り返りようがないですよね。数字をもとに考えれば、自分はもう少し濃い味が好きだから、豆の量を「2g」増やそうなどと微調整ができます。

例えば、詳しくは『世界一美味しいコーヒーの淹れ方』で解説していますが、コーヒー豆とお湯の割合を指す「抽出比率」というものがあります。美味しいコーヒーには、豆とお湯の最適な比率があり、プロもこの比率にそってレシピ作りを行います。

ドリップコーヒーで使われる国際的な抽出比率は、コーヒー豆を1として、お湯の量を16とする「1:16」という比率です。もし、20gのコーヒー豆を使用して抽出する場合は20×16となりますので、320gのお湯が必要になる、という考え方です。

――重さを測る必要があるということですか?

そうです。これはプロの世界だけでなく、自宅でコーヒーを淹れる際にも非常に有効な考え方です。もっとも、「1:16」という比率はプロの世界で好まれて使われていますが、数字が細かく面倒なので、私はお湯100gに対して、コーヒー豆が何g必要なのかという公式で考えることを推奨しています。

【井崎式基本レシピ】お湯の重さ100g : 豆の重さ6~8g

コーヒーカップ2杯分の約300gを自宅で淹れようとしたら、豆は18~24g使用するということです。なお、豆の重さに幅を持たせているのは、好みによって濃度調整をしてほしいからです。

例えば、豆を18gで淹れたら少し薄く感じたので、20gに変えてみた。2gでこんなに味が変わるんだというのがわかります。でも、それを感覚で調整するのは、初心者には難しいと思います。

よくわからないまま感覚で始めるより、プロが使用する美味しさの黄金比を守って始める方が、間違いなく美味しいコーヒーが淹れられるはずです。


――重さを測るというのは、ちょっと面倒くさく思えるかもしれません。

いや、逆なんです。数字をもとに考える方が、結果的にはずっと簡単に淹れられるんです。

例えば、私の妻はコーヒーには全然興味がないので、豆の種類や抽出方法についての知識はありません。また淹れ方にこだわったり、美味しくなる方法を調べたりもしません(笑)。でも普段、家で美味しいコーヒーを飲めているから、不味いコーヒーは嫌いなんです。

妻が自分で淹れるときは、単純に重さを測って、抽出比率の通りに淹れるだけです。それだけで、すごく美味しいコーヒーが淹れられます。はっきり言って、その辺のコーヒーショップのコーヒーより美味しいですよ。

つまり、数字があれば、レシピ通りに毎回美味しく淹れられるんです。数字は、美味しく淹れられるコンパスのようなものです。初心者こそ、数字があるほど簡単なんです。

一度、妻が「コーヒーが淹れられない」と言うので、なぜかと思ったら、「スケール(はかり)のバッテリーが切れたから」と(笑)。そのくらい、淹れ方の手順も量もわからない素人でも、数字をもとに実践すれば、美味しく淹れられるということなんです。

数字じゃなく、感覚的に淹れるというのは、大量に失敗しないと正解にたどり着けないということなんです。プロならそれも必要です。でも、普通の人が自宅でコーヒーを淹れる場合は、途中で嫌になってしまいますよね。そこでやめてしまうのはもったいないと思います。

感覚で上手に淹れられるようになるというのは、完全に職人技の域です。この前、抽出を教えている際に、ある人から「2投目を入れるベストタイミングは、泡が出てきた『この瞬間』です」と言われたんですが、私にはどういうタイミングが全然わからなかったです(笑)。そのタイミングは、もはや職人の目安ですよね。なお新刊では、その曖昧なタイミングを誰でもわかる数字に変えて紹介しています。

圧倒的な回数をこなせば、目分量でできるようになるかもしれません。例えば私も、豆20g、お湯300gなどと目分量で淹れることができます。手が覚えているんです。でも、それは圧倒的な量をこなしているからできることです。

数字で考えるというのは、実は初心者ほど簡単なことで、再現性を限りなく高められるんです。数字に従って淹れるだけでいいから他に考える必要がない、ということなんです。