美味しいコーヒーを淹れる第1歩は、自分好みの味を捉えること。好みの味わいを言語化できるか否かが何より大切だ。しかし、コーヒーの味はとても複雑。ジャスミンの香り、ストロベリーの味わい……など、普通の人にはよくわからない。
そこで、世界屈指のバリスタが、初心者が味を正しく捉えるための秘伝の「味わい判定表」を公開。これが驚くほどわかりやすく、好みの味を言語化しやすいと大評判だ。テレビで話題沸騰!日本人唯一のワールド・バリスタ・チャンピオンである井崎英典氏の著書『ワールド・バリスタ・チャンピオンが教える 世界一美味しいコーヒーの淹れ方』から、その内容の一部を紹介する(撮影:京嶋良太)。
コーヒーは結局「苦いか・酸っぱいか」
コーヒーを飲み慣れていない人にとって最初にぶつかる壁は、「自分好みの味わい」がわからないことではないでしょうか。
特に近年、スペシャルティコーヒー(*)を扱うコーヒーショップでは、「フローラル」「チョコレート」「パッションフルーツ」「オレンジ」など、「フレーバー」で味わいを分類する傾向があります。
*日本スペシャルティコーヒー協会によると「消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆(種子)からカップまでのすべての段階において一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須である」と定義されている。
確かにスペシャルティコーヒーには、コマーシャルコーヒーとは一線を画した特筆すべき味わいやフレーバーが存在します。それはワインの味わいの表現にも似ていて、困惑する人もいるでしょう。
しかし、それらのフレーバーの表現を見て、すぐさま「私の好みはオレンジのような味わいなんだよね」とはなり得ないですし、そもそも理解が難しい非常にハードルの高いステップだと思います。
コーヒーにフルーツや花のような香りや味わいを見出すためには時間と経験が必要ですので、最初はフレーバーで好みを探るのではなく、「味わい」で好みを探るべきだと思います。
味わいとは、「基本味」として認識できる味わいを指します。コーヒーの基本味は主に、甘味、酸味、苦味で表現され、ごく稀に塩味やうま味に関連する味わいで表されることもあります。
コーヒーのプロとして、さまざまな味わいでコーヒーを形容したくなりますが、コーヒーは結局「苦いか酸っぱいかだよね」とお客様に指摘されたことがあります。当時は「そんな乱暴な分類があるか!」と思っていましたが、時間が経つにつれて「その考え方も一理あるかな」と思うようになりました。
確かに、コーヒーそのものの風味特性を無視して、焙煎が形作る味わいのみに焦点を当てた場合、焙煎が深ければ苦くなりますし、焙煎が浅ければ酸味が強くなります。
「苦味」が好みか、「酸味」が好みか、この2つの好みまで分類することができれば、圧倒的にザックリとした判断にはなりますが、自分好みの方向性を学ぶことができるでしょう。
当然、飲み慣れてくると、自分の好みの範疇において、「このコーヒーは同じ焙煎度合いなのに少し甘く感じるな」など、細かい違いに気づくことができると思います。
しかし大前提は、自分の好みの大まかな味わいの方向性を最初に学ぶことであり、その後自分の好みを細分化することで自分好みのコーヒーにより一層近づくことができます。
したがって、まずは次のように考えてみましょう。
【苦味が好きな方】→焙煎が「深め」のコーヒーを選ぶ
【酸味が好きな方】→焙煎が「浅め」のコーヒーを選ぶ
焙煎が深くなればなるほど、苦味が生まれ、焙煎が浅ければ浅いほど、酸味を感じます。玉ねぎを炒める光景を想像してみてください。玉ねぎにサッと火を通せば、水々しい味わい、つまり酸味のある味わいになり、火を通し続ければ行き着く先は焦げ、すなわち苦味のある味わいになります。
苦味や酸味は焙煎度合いに大きく影響を受けますので、まずは焙煎度合いに着目した上でコーヒー選びをしてみましょう。焙煎度合いで苦味と酸味を大まかに分別することで、コーヒー選びにおいて間違いを犯すリスクを下げることができるのです。