都心回帰で築く
大手私鉄のJR包囲網
7月末某日の未明に、神奈川県の総合車両製作所から、ある車両が“出荷”されることになっている。東京地下鉄(メトロ)副都心線に乗り入れできるよう改造された東京急行電鉄の車両だ。
東急東横線と副都心線との相互直通運転が、来年3月16日から開始される。
最長距離は、埼玉県の森林公園駅から元町・中華街駅までの88.6キロメートル。西武線の所沢、東武線の川越から横浜・みなとみらい方面まで、乗り換えなしの1本で結ばれる。西武鉄道、東武鉄道、メトロ、東急、横浜高速鉄道の5社が連携する珍しい事例だ。
空前の相互乗り入れブームである。1964年に東横線がメトロ日比谷線に乗り入れを始めたように、私鉄とメトロとの連携は決して珍しくなかった。だが、最近の乗り入れは、複数の鉄道会社をまたぎ、列車の走行距離が長い。
大手私鉄が抱えている課題は共通している。将来的には、少子高齢化で乗降客数の減少は避けられない。自社路線の東京都心へのアクセスを改善することで、運賃収入と沿線価値を高める心づもりなのだ。
私鉄による都心回帰の動きは、JRへの宣戦布告である。例えば副都心線は、池袋、新宿三丁目、渋谷などの主要駅に停車する。これらの駅、または周辺には、山手線などドル箱路線が走っており、JRは利用客が奪われるリスクがある。
現在、JR東日本は運輸事業に続く経営の柱として、「駅ナカ」など、生活サービス事業を拡充している。
私鉄の乗り入れによって、顧客が私鉄路線に持っていかれると、顧客が「駅ナカ」で立ち止まる機会も減ってしまう。運輸事業と生活サービス事業の両方に、ボディブローのように効いてくるかもしれない。大手私鉄によるJR包囲網が築かれようとしている。
“駅力”アップが
躍進する私鉄の原動力
私鉄躍進の原動力は2つある。1つ目は、先述した相互乗り入れである。
2つ目は、駅力をアップする開発プロジェクトである。都心に主要駅を抱える私鉄が、それぞれオリジナリティあふれる開発を手がけることで、運輸外収入を拡大させようとしているのだ。