「でも、新首都模型が出来てても、その前にやることは山ほどあるんじゃないの。まず、場所の決定でしょ。昔さんざんもめて、決まってない。さらに今では状況がかなり変わってる。それに、タイムスケジュールの作成。予算の獲得。業者の選抜と決定。そして国会を通さなければならない。これが一番厄介なんじゃない。首都を東京から他に移しますって言われて、すんなり納得する議員なんて少ないわよ。与野党ともに反対する議員は山ほどいる。都選出の議員なんて絶対に反対ね。それに財界も大反対するでしょうね。国民だって同じよ。都民はほぼ全員が反対。自分たちが住んでるのは日本の首都東京だって、誇りを持ってる。順調に進んでも、準備までに数年かかるわよ。模型を見せられただけで、こんなに騒ぐことないのにね」
優美子は周りに視線を向けながら小声で言った。
「それだけ魅力ある模型だってことだ」
「夢だから魅力的なのよ。現実離れしてるから」
「きみは、どうなんだ。賛成なのか反対なのか」
「私は──」
優美子は言葉に詰まっている。
「賛成だから、この仕事をやろうと決めたんじゃないのか」
「頭の中じゃ、このままの日本じゃ駄目だって分かってる。何か国民が一つになれるもの、新しい気持ちで乗り出せるものをやらなきゃ駄目だってことはね」
「どっちなんだ」
「どうせ首都移転なんて、何年も先だろうって気持ちがあったのはたしかよ」
「そんなにかかると、日本はどうなるんだ。今だって、これだけガタガタしてるんだ。とっくに、破綻してる」
「じゃ──」
優美子の顔に緊張があらわれた。
「村津さんの頭の中には、特別なタイムスケジュールがあるんじゃないのか。かなり早く首都移転が動き始める何かが」
「やはり、あなたは何か知ってる。私たちが知らない何か。だったらそれを──」