優美子の言葉が終わらないうちに、森嶋のポケットで携帯電話が震え始めた。

 高脇からだ。

「今、どこにいるんだ」

 呼びかけると一瞬の間をおいて低い声が帰ってきた。

〈今日の昼のテレビニュースを見てくれ〉

「何があるんだ」

〈また、連絡する〉

 電話は切れた。ほんの10秒ほどだったが、高脇の緊張感が伝わってくるような声だった。背後では、複数の声が聞こえていた。

「高脇さんからね。彼、今どこにいるの」

 隣で見ていた優美子が聞いた。

 森嶋は時計を見た。12時までにあと5分だ。

「昼のテレビを見ろと言ってきた。喫茶店かどこかに行って――」

 優美子は森嶋の言葉が終わらないうちに立ち上がり、部屋の隅に置かれているテレビのところに行ってスイッチを入れた。優美子の突然の行動に部屋中の視線が集中している。
「チャンネルはどこなのよ」

 優美子が森嶋に向かって声を上げた。

「聞いてない。テレビニュースと言ってた」

「昼のニュースはNHKだろ」

 その声で優美子がチャンネルを変えた。

 時報とともにニュース番組が始まった。

(つづく)

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