報道陣の間にかすかな動揺が広まった。この数値はネットに流れている地震、火山予知情報とはまったく重みの違うことは彼らがよく知っているのだ。
〈5年以内の発生率は92パーセント以上という結果が出ました。これが最新のもっとも信頼のおけるものだと考えてください〉
機構長は自信を持って言い切ると、納得を求めるように、井山と高脇に交互に目を向けた。
〈東日本大震災では東北沖の太平洋プレートと北アメリカプレートが大きく揺れ動き、幅約200キロメートル、長さ約500キロメートルに渡って大きくずれが生じました。このような巨大プレートが大きく崩れた場合、数年に渡ってその影響が出るものです。余震と呼ばれているものです。今回も例外ではありません。身体に感じるものは、すでに38回。身体に感じないほどの地震を含めると100回以上の地震が頻発しています。こういうことを考え合わせると、すでに、関東地方の地下のプレートはズタズタになっていると考えられます〉
〈ということは、前回の東京直下型地震は本番じゃないということが明確になったということですね。高脇博士が失踪する前に発表した通りだと〉
〈失踪なんかじゃありません。私は神戸にいました〉
〈今回の発表で特に新しいことは。多少の数値の違いはあっても、我々には同様な発表の繰り返しにも思えます〉
東洋新聞の記者と名乗った男が無遠慮に聞いた。
〈それは使用している計算式が基本的には同様であり、使用データが最新の――〉
〈我々が知りたいのは、現在出回っている出所不明の報告との根本的違いです。あなた方は――〉
〈京コンピュータが行なったということです。つまり計算精度が格段に上がっています。よって、信頼性が高いということです〉
高脇が記者の言葉をさえぎり、記者を見すえて臆することなく答えた。森嶋は内心驚いていた。こんな高脇を見るのは初めてだったのだ。
〈今後、地震の回数は徐々に増えていくと考えられます。次第に大きくなるというものでもありませんが、本振が起こる前の予備的な揺れです。その他に予兆現象と思えるモノも起きています〉
マスコミ席にかすかなざわめきが広がっていく。
〈ただし、今日明日に起きるということではありません。精緻な観測により、数ヵ月前の予知は可能かもしれません〉
森嶋たちも息を飲んで聞き入っていた。
そのときドアが開いて、長谷川たちを送っていった村津と遠山が帰ってきた。