総理執務室の中には総理を含めて3人の男がいた。
「なんだ、あの発表は。火に油を注いだようなものじゃないか」
総理はテレビを消すと強い口調で言った。
神戸からの生中継を見ていたのだ。放送は10分ほどだったが、記者会見はまだ続いている。
「しかし、総理が正式な会見をしたほうがいいと」
「なぜ事前に会見内容をチェックしておかなかったんだ。学者などという奴らは、後先考えずに行動する奴らなんだ。あれでは近いうちに必ず東京を巨大地震が襲うという、お墨付きを与えたようなものだ」
「今日明日の問題ではないとはっきり言っています。今後、数年かけて対策を練る余裕があると」
「5年以内92パーセント以上の発生確率と言い切ったぞ。おまけに、それまでに小規模な地震が増え続けるだと」
「地震数ヵ月前の予知は可能だとも」
「あと数年でどんな対策が取れるというのだ。東京は指揮系統がメチャメチャになり、国家破綻が起こることが明白になっただけだ」
総理は一気に言うと息を吐いた。
「明日から、いや今日から大企業はもとより、個人も大挙して東京を逃げ出し始めるぞ。そうなるとパニックが起こる」
「それまでに有効な対策を――」
「警視庁の機動隊と自衛隊に連絡を取れ。なにか起こればすぐに出動できる態勢を整え待機。ただし、これは極秘だぞ。こんなことが漏れれば、これもまた騒ぎ出す者がいる」
総理は椅子に倒れるように座った。
「いよいよ首都移転を急がなければならないな。村津のグループの作業はどの程度まで進んでいる。至急、確認しろ。前回は6年以内で首都移転は完了すると言っていたが、今となっては遅すぎる。時間がかかればかかるほど、東京崩壊は近づく。4年、いや余裕を持って2年以内に新しい首都に移らなければ」
「いくらなんでも、ムチャと言うものです。これだけの大事業です。やはり、少なくとも5年単位の――」
「そのときまで、日本が存在していればという話だ」
総理は考え込んだ。このまま座して日本が衰退し、潰れていくのを見護るか。いや、それは出来ない。自分が総理の時代にそんなことになれば、やはり教科書には載るだろうが、孫たちからは見向きもされないだろう。
「首都移転チームの村津を呼んでくれ」
「あと1時間で閣議が始まります」
「早く連絡をとれ。閣議はそのあとでいい」
総理は強い口調で言い放った。