生物とは何か、生物のシンギュラリティ、動く植物、大きな欠点のある人類の歩き方、遺伝のしくみ、がんは進化する、一気飲みしてはいけない、花粉症はなぜ起きる、iPS細胞とは何か…。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を親切に、ユーモアたっぷりに、ロマンティックに語る『若い読者に贈る美しい生物学講義』。養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」と各氏から絶賛され、累計6万部突破のロングセラーになっている本書の内容の一部を紹介します。(初出:2019年12月15日)

ダーウィンの「進化論」は誤解されている――若い読者に贈る美しい生物学講義【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

そんなにヒトは偉いのだろうか

 私たちは、すべての生物の中で、ヒトが一番偉いと思いがちである。その理由はよくわからないが、おそらく脳が大きくて、いろいろなことを考えられるからだろう。

 もしかしたら、自分自身がヒトだから、ということも関係しているかもしれない。この、ヒトが一番偉いという考えは、今に限ったことではなく、昔からあったようだ。

 中世から近代初期にかけて、キリスト教を基礎にしたスコラ哲学の学者たちは、「存在の偉大な連鎖」というものを考えていた。それは、世界に存在するすべてのものを、石ころから神へと上っていく階級制度に組み込んだものである。

「存在の偉大な連鎖」において、ヒトは生物の中では一番上で、天使のすぐ下に位置している。

 この「存在の偉大な連鎖」は何百年も前の考えなので、今でもそのまま信じている人は少ないだろう。しかし、「存在の偉大な連鎖」から天使や神などを除いて、生物の部分だけを抜き出したらどうだろう。いろいろな生物がいて、その中でヒトが最上位に位置している。

 こういう感覚は、今でも多くの人が持っているのではないだろうか。

 もちろん、何を偉いと思おうが、それは人の自由である。ヒトが一番偉いと思おうが、カブトムシが一番偉いと思おうが、それは個人的な問題であって、いっこうに構わない。

 構わないけれど……それが事実だといわれると、少し問題が出てくる。ヒトが一番偉いと個人的に思うのは構わないが、ヒトが一番偉いのは客観的な事実であると主張されると、少し変なことになってくる。とくに、進化について考えたときに、変なことになってくる。