生物とは何か、生物のシンギュラリティ、動く植物、大きな欠点のある人類の歩き方、遺伝のしくみ、がんは進化する、一気飲みしてはいけない、花粉症はなぜ起きる、iPS細胞とは何か…。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を親切に、ユーモアたっぷりに、ロマンティックに語る『若い読者に贈る美しい生物学講義』が11月28日に発刊された。
養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」と各氏から絶賛されたその内容の一部を紹介します。

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虫を捕まえるハエジゴク

 動物や植物は、すべての生物の中のほんの一部分にすぎない。とはいえ、私たち自身は動物なので、動物を中心に考えてしまうのは、ある程度は仕方のないことだろう。さらに、動物が生きていくためには、植物が重要な役割を果たしている。

 動物の体の材料も、動物が動くためのエネルギーも、元はといえば植物からもらったものだ。このように、動物と植物は、私たちにとって一番身近な生物であることは間違いない。

 そこで、本稿では植物を、少し眺めてみることにしよう。

 さて、植物というと、動かない生物というイメージが強い。しかし、実は、動く植物は結構たくさんいる。その中で、もっとも有名なものの一つが、ハエジゴク(ハエトリソウともいう)だろう。

 ハエジゴクはアメリカの食虫植物で、葉が二枚貝のような形をしている。貝殻に当たる部分は裂片と呼ばれ、縁には長い突起がたくさんついている。2枚の裂片は普段は開いているが、ハエなどが中に入ると0.5秒ほどで閉じてしまう。この時点では、まだ裂片と裂片のあいだにはすき間があり、ハエは歩くことができる。

 しかし、2枚の裂片の突起がちょうど牢屋の鉄柵のような形になっているので、ハエは逃げることができない。そのうちに、裂片はだんだんと閉じていき、最後にはハエのアウトラインが浮き出るほど、きつく閉じてしまう。

 そして、塩酸に富んだ消化液を分泌して、ハエの栄養分を吸い取る。10日ほど経つと、裂片は再び開いて、ハエの死骸を捨てる。そして、また獲物を待つのである。

 ところで、ハエジゴクは、どうやってハエが来たことを知るのだろうか。ハエジゴクの2枚の裂片の内側には、それぞれ3本ずつ感覚毛がある。ハエがこの感覚毛にだいたい20秒以内に2回触れると、裂片が閉じる。

 1回だと、葉か何かがたまたま落ちてきたときにも裂片が閉じてしまうので、2回触れないと閉じないようになっているのだろう。

 ちなみに、閉じ込められたハエは逃げ場を探して、ハエジゴクの牢屋の中を歩き回る。そのときに何回も感覚毛に触れてしまうので、裂片はそれを感じて、ますますきつく閉じるのである。