――筆者のスコット・マッカートニーはWSJミドルシート担当コラムニスト
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来年の夏休みを欧州で過ごすつもりなら、飛行機の遅れを予定に入れておくべきだ。
欧州の管制調整機関である欧州航空航法安全機構(ユーロコントロール)によると、欧州の航空管制は混乱状態にある。今年の一便当たりの平均遅延時間は2017年を76%上回って推移しており、2013年の4倍に達している。今年の夏は遅延の記録を塗り替えた昨夏ほどひどくはなかったが、来夏については危険信号が既に出始めている。
「われわれが危機に陥っていることを人々は理解する必要がある」。ユーロコントロールでネットワーク管理部門のトップを務めるヤーコポ・プリシノッティ氏はこう指摘する。
アイルランドの格安航空で、輸送旅客数で欧州最大のライアンエアは、来春にボーイング737MAXの運航を再開したとしても、航空管制への過度な負担を避けるため、10機のみを夏の運航計画に組み込み、約50機は運航休止を続けることを明らかにした。同社は航空管制による遅延を補うべく、予備機の数を増やしたり、運航時間を長めに見積もったり、地上スタッフを増やして荷物の積み下ろしの時間を短縮したりしている。
ライアンエアはできるだけ多くの乗客を飛行機に詰め込もうと、立ち乗り座席を導入する意向を示したこともある。そのライアンエアが最繁忙期に全ての飛行機を飛ばさないというのだから、この状況がどれだけひどいかが分かる。
ライアンエアで最高マーケティング責任者を務めるケニー・ジェイコブズ氏は「夏場は多くの飛行機を飛ばしたくない」と話す。
欧州ではこの6年間で旅客便数が16%増えた。一方、空の渋滞など運航ペースの低下が原因の遅延は2013年には1便当たり平均で0.38分だったが、2018年には4倍の1.68分に上昇した。今年は暫定見通しで1.6分に達している。
米FAAは最新の航空管制技術を取り入れるのに苦心しており、米国ではひどい遅延の原因としてよく非難されるが、欧州から見れば効率性のお手本だ。
ユーロコントロールや航空会社によると、最大の問題は41の航空管制局が独自に管制業務を続けており、管制権の放棄に難色を示していることだ。
20年前には6つの地域管制センターをユーロコントロールが運営して管制業務を一元化し「欧州の空を1つにする」案が検討されたが、実現しなかった。
航空業界のロビー団体「エアラインズ・フォー・ヨーロッパ」(A4E)のトップ、トーマス・レイナート氏は「各国が空域の統合に注目するのは危機が起きたときだけ」と話す。