――筆者のヤロスラフ・トロフィモフはWSJ外交担当チーフコメンテーター
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21世紀の最初の10年が終わった際、当時欧州委員会の委員長だったジョゼ・マヌエル・バローゾ氏は大いに楽観的だった。欧州委員会は「急激に変化する世界の中で、リーダーとしての責任を担うユニークな地位にある」と強調したのも同氏だった。
しかし、その後の年月の中では、まさに欧州連合(EU)が生き残れるかどうかが問われる事態が何度も起きた。台頭する中国や影響力を誇示するロシアと米国の間の対立が深まる中で、世界秩序は書き変えられ、EUが重要視するルールに基づいた国際システムは損なわれた。この残忍になる一方の新たなゲームの中では、弱体化し、内輪もめが絶えず、のけ者にされたEUの影響力は、たとえあったとしても、本来あるべきレベルを大幅に下回っている。
パリに本部を置くシンクタンク、仏戦略研究財団(FRS)の副所長で政治学者のブルーノ・テルトレ氏は「国際舞台の主要プレーヤーである3カ国が、EUを主要勢力ではなく、せいぜい市場や自らの戦略展開の舞台とみなし、最悪の場合には、いずれ解体される存在とみなすことなど、10年前には想像もできなかった」と語る。
英国が離脱してもEUは27の加盟国を持ち、16兆ドル(約1750兆円)の市場規模を有する。これは米国や中国と肩を並べる規模だ。EUの人口は4億4700万人で、米国を3分の1程度上回る。こうした幾つかの指標から判断すると、EUは世界有数の影響力を持ってしかるべきだ。しかし、欧州の政治家らが、欧州共通の利益を追求する能力に欠けているために、こうした潜在的な力はしばしば損なわれてしまう。
リトアニアのリナス・リンケビチュウス外相は「世界戦略における力の均衡は変化しており、その流れは好ましくない方向に向かっている。それはリーダーシップの不在と関係している。われわれがリーダーを持たないならば、常に守勢に回り、常に弱い側に立たされ、暗雲が押し寄せるのを待ち受けることになる」と述べている。