「緘黙(かんもく)」から、長期間のひきこもりになる人が、実は水面下に数多いことがわかってきた。

 これまで「大人になれば、自然に治る」と専門家から言われてきたのに、状況は何も変わっていないのだ。

 前回は、そんな「大人の緘黙」の子を持つ4人の家族の話を紹介した。今回は続けて、「大人の緘黙」に今も向き合い続ける本人の話を取り上げる。また、「緘黙」に悩む中学生の父親の話を紹介したい。

朗読はできるけど会話はできない
幼稚園から大人になった今も続く「緘黙」

「緘黙」とは、ある特定の場面になると、何も話せなくなる状態のことで、「場面緘黙症」とも呼ばれている。

 なかには、特定の場面だけでなく、家族も含めて、すべての場面において話せなくなる「全緘黙(症)」の状態になる人もいる。

 Gさんは、「大人の緘黙」の当事者だ。

 高校1年のときに学校を中退。その後、10年くらいにわたって、大検を取ったり、アルバイトをしたりしてきた。しかし、対人関係が築けず、電車や教室などの閉鎖された環境も苦手になり、ほとんど家に引きこもっていた。

 今では、自然と感情を抑えるようになり、家でも笑うことができなくなった。

 Gさんが書いてくれた自己紹介文によると、緘黙症になったのは、幼稚園の年中の頃。一緒に遊びたくても、友だちの輪に入ることができなかった。

 それ以前のことは、あまり記憶にない。

 小学校に入学してからも、国語の朗読や問題の答えは言えたが、会話はまったくできなかった。

「はい」「いいえ」で答えられることは、首を縦に振るか、横に振るかで、意思を表示。それ以外のときは、首を傾けるか、相手に誘導してもらって首を横に振っていたという。

 学校では、話したり笑ったりできなかったが、家では、同級生の男子と1つ年下の男子となら、7~8割くらいの子と普通に遊ぶことができた。しかし、1人でも「学校での自分」しか知らない子が来たり、初対面の子が家に来たりしたら、一瞬で会話がまったくできない「学校での自分」に変わっていた。

 とくに「緘黙」になる子どもの心の内は、周囲の大人たちが想像する以上に、繊細なものなのである。