「私刑」は憲法違反
訴えられれば法的責任を負う

 ネットユーザーの中には、「事実であれば何を書いてもいい」という認識の人も少なからずいる。だが、複数の弁護士に聞いても、皆一様に、こう口をそろえる。

「たとえ刑事事件で、既に立件されている刑事被告人といえども、プライバシーをみだりに公開される理由はありません」

 他人に関することは、事実だからといって何を書いても良い訳ではない。その他人の評価を下げるような内容ならなおさらだ。他人の評価を高めるにしても、それを本人が望んでいるかどうかは分からない。安易な書き込みはしないほうがいい。

 なお、この筆者の問いに答えてくれた弁護士たちは、「過激なネットユーザーを刺激したくない」との理由で、実名でのコメントを拒んだ。プロの弁護士もひるむほど、ネットは無法地帯化しているのだ。

 神戸市教員間いじめ・暴行事件では、すでに広く伝わっている動画から、加害側とされる人物の非は明らかかもしれない。だからといって、安易にその実名や住所を晒したり、その行為を執拗に糾弾する、いわば「私刑(リンチ)」を加えていいという理由にはならない。日本国憲法第31条には「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」とある。

“プロ”である報道機関の記事であっても、時に実名報道の是非が問題となる。一方、ネットユーザーたちは一個人の立場で、自らの名前は伏せて他人の個人情報を晒す。たとえ実名での書き込みであったにしても、「自らの文章に責任を持つ」ことはない。

 ただし、裁判に訴えられれば話は別だ。この事件の加害者とされる教員が、「プライバシー権を侵害された」との理由で訴えた場合、その書き込みを行ったり、これを拡散した者は、もちろん、法的責任を負うことになる。

 さて、その神戸市教員間いじめ・暴行事件に関するネットリンチともいえる書き込み内容は、少なからず事件にも影響を与えている。

 事件後、市民の間からは、加害側教員たちの記者会見を求める声が相次いでいる。だが、これは恐らく実現しないだろう。10月末に加害側とされる4教員全員に会ったという神戸市教育委員会幹部は、「とても彼らが記者会見に耐えられる状態ではない」とし、その理由を次のように語った。

「ネット上には彼らの顔写真や実名が出ており、とても表を歩ける状態ではない。全員、病院に通っており、憔悴し切っている」