“「そのとき、『やっぱり本当に普通の場所だな』と思ったのですが、私にとってはその『普通さ』こそが驚きでした。そんなふうに『これは宇宙出張だな』という考えが強化されていきましたね。一つ比べるものがあるとすれば、海外に行ったことのない人が初めて海外旅行をしたときと似ていると思います」”

 引用はこのへんにして、多くの宇宙飛行士が言及するのは、地球環境の愛おしさについてだ。宇宙の闇は、畏れを抱くほどに底知れず、想像を絶するほどの孤独がある。昨今、宇宙ビジネスがたびたび話題になるが、経験者からすればあの極限の世界を克服するのはとても容易ではない。

『宇宙からの帰還』より興奮は薄いが
人類の確かな進歩を感じる

 さらなる活動の場を求めて未開の地へ踏み出していくのは人間の本能のようなものだろうけれど、まだ謎の多い地球のシステムや生命への深い理解がないと、宇宙進出自体が目的化して、その先の社会構築や幸福追求が遠のいてしまうのではないか。

 この考えを発展させ、日本人宇宙飛行士の草分けである毛利衛は「ユニバソロジ」という概念を、また日本人初の船外活動を行った土井隆雄は「有人宇宙学」という学問を創出している。このあたり、立花氏が飛行士たちから聞き取った宇宙体験に対して「実体験した人のみがそれについて語りうる」として安易な総括をしなかったように、本書の著者もあまり解釈を加えていないのが好感だ。

 哲学的・反戦的色合いの濃かった『宇宙からの帰還』と比べると、途轍もないものを読んでしまったという興奮には薄い。しかし、そこには人類の確かな進歩があるように感じる。『帰還』と同じく、無限の想像力と好奇心を喚起する一冊である。

日本人宇宙飛行士12人の証言、「懐かしかった」から「普通だった」まで

(HONZ 西野智紀)