いまや日本を含めた世界50ヵ国以上の「火星協会」の会員が、有人火星探査の実現に向けて研究開発を推し進めている。なぜ、数ある惑星の中でも「火星」を目指すのか? イーロン・マスクはなぜ最初から火星移住を目標に掲げているのか? アマゾンのジェフ・ベゾスは何を目指しているのか? 清水建設宇宙開発室、JAXA出身の宇宙ビジネスコンサルタント・大貫美鈴氏の新刊『宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』から、内容の一部を特別公開する。
2年に1度実施される「火星探査ミッション」
月より150倍遠い惑星の秘密
火星への探索は、1960年代から始まっていました。探査機の打ち上げです。旧ソ連の「ゾンド計画」や「マルス計画」がありましたが、打ち上げに失敗したり、軌道上で爆発してしまったりを繰り返しました。アメリカも、「マリナー計画」を立ち上げましたが、失敗を繰り返しました。
1973年、ソ連が打ち上げた「マルス3号」が初めて火星に着陸しますが、着陸後すぐに信号が途絶えてしまいました。3年後には「マルス6号」が着陸に成功しますが、やはりすぐに信号が途絶えてしまいました。
しっかりした探査に成功したのは、1976年にアメリカが打ち上げた「バイキング1号」でした。1ヵ月も経たないうちに続いて打ち上げた「バイキング2号」も火星への軟着陸に成功。火星地表の鮮明な写真を地球に送っています。
その後20年もの間、失敗が続きましたが、1997年にアメリカの「マーズ・パスファインダー」が着陸。自走型ローバー「ソジャーナ」が、約1万6000枚の写真と大量の大気や岩石のデータを採取して地球に送りました。
以降、2004年にアメリカの「スピリット」、「オポチュニティー」が続けざまに着陸に成功。4年後の2008年には「フェニックス」が、2012年には「キュリオシティー」が着陸しました。
着陸に成功しているのはアメリカだけですが、周回衛星では、アメリカやロシアや欧州に次いで、インドが2014年に、アジアでは初めて火星探査機の周回軌道投入に成功しています。この火星周回軌道衛星は「マンガルヤーン」。2013年11月に打ち上げられ、300日かけて火星周回軌道に入った低価格探査機として注目を集めました。
日本も「のぞみ」を1998年に打ち上げていますが、火星軌道に入れず、着陸はできていません。
火星への探査機打ち上げは、タイミングがあります。太陽の周りを回る地球と火星の距離は最も遠いときで約4億キロも離れてしまいますが、最も近いときには約5800万キロになります。
この最も近い距離になるタイミングを「ローンチウィンドー」と呼んでいます。まさに火星への窓が開く、というタイミングです。
最も近いとはいえ、地球と月との距離に比べると、約150倍になります。しかし、火星探査のための打ち上げエネルギーが最も少なくて済みますから、このタイミングで打ち上げるのが、ベストなのです。
ローンチウィンドーは780日おき、約2年おきに1ヵ月間だけあります。火星探査ミッションが2年おきに実施されるのは、そのためです。