イラン司令官Photo:Reuters

 イランの支援を受けた民兵組織とイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官を狙ったイラクでの米国の空爆は、必要ではあったが、こうした行動は常にナショナリストの反発を招くリスクを伴う。イラク議会が5日、同国から米軍を追い出すよう求める象徴的な決議案を可決したことも、反発の一例だ。しかしこの決議案は、最後通告にはほど遠いものでもある。

 今回の投票は、決定的なものではなかった。拘束力のないこの決議案の投票に参加した議員は、イラク議会の329人の半数をわずかに上回っただけだった。イランのコッズ部隊と協力するイスラム教シーア派武装組織「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」は、決議案に反対する議員に警告を発していた。同組織は先週バグダッドの米国大使館を襲撃した。

 過半数の議席を占めるシーア派の議員らの大半は、決議案に賛成票を投じた。その一方でクルド人とスンニ派の議員らは、議会を欠席した。これらイラクの少数派勢力は、イランによる支配のリスクを誰よりもよく理解しており、米軍の駐留継続を支持してきた。

 イラクのアデル・アブドルマハディ首相は決議案を支持したが、首相は大規模な抗議行動によって議会の正当性が損なわれたことを受け、11月に辞意を表明しており、現在は暫定首相であるにすぎない。新たな議員を選出するため、年内に選挙が実施される見込みだ。一般国民はすでに、イラクの支配階層への嫌悪感を表明しており、イラク国内での米国とイランのプレゼンスが、選挙の主要な争点になることは間違いない。

 イラク議会はまた、ソレイマニ司令官に対する攻撃について国連に異議申し立てをすることを決めた。国際法を突然気にかけ始めたこれらの人々は、そもそもソレイマニ氏がイラクにいたことが、現在も有効な2007年の国連安保理決議違反であったことを気にかけていないようだ。テロリスト集団の首謀者(であるソレイマニ氏)が国連の渡航制限に従っていたならば、同氏は今も生きていただろう。

 5000人程度という米兵の控えめなプレゼンスは、イラクと米国の利益のためのものだ。イラクは、米国の空軍力、高精度の武器、情報収集と訓練がなければ、モスルを奪還することも、過激派組織イスラム国(IS)を打倒することもできなかった。これらの資産は、ISの復活やその他のスンニ派ジハーディスト(聖戦主義者)による反乱に対する防御だ。米軍はまた、イラクの愛国者たちに自信を与えた。イランから武器供与を受けたシーア派民兵に対抗し、イラクをイランの政治的および軍事的な属国にするというイランの戦略的目標に抵抗するための自信だ。

 米国の外交官や兵士が敵に包囲されるのであれば、米国はイラクに残れないし、残るべきでもない。イラクの治安部隊は先週、米国大使館を守れなかったほか、ソレイマニ氏とシーア派民兵によるロケット弾攻撃を止められないことを示した。シーア派民兵らは2カ月間で11回、米軍に向けてロケット弾を発射していた。

 こうした攻撃を抑止するため、トランプ大統領は民兵を攻撃し、ソレイマニ氏を標的にする決断を下した。米軍への攻撃を解禁するようなことは耐えられるはずもなく、何かがなされなければならなかった。こうした米国による自衛がイラクにとって我慢できないものならば、いずれにしろ、親イランの民兵が米国人を追放することが可能になっていただろう。

 ところで、ベン・ローズ氏(元大統領副補佐官=国家安全保障問題担当)やスーザン・ライス氏(元国連大使)をはじめとするオバマ政権時代の当局者は、イラクでの米国のプレゼンスについて全く信頼性を欠いた発言を行ってきた。バラク・オバマ大統領は2011年にイラクからの米軍の全面撤退を正当化する口実としてイラクのシーア派による反対を挙げていた。オバマ氏は再選を目指す2012年の大統領への出馬に際し、「戦争の機運は後退しつつある」と表明した。チーム・オバマはイラクから引き揚げることを望んでおり、駐留米軍の地位協定についてほとんど交渉しようとしなかった。

 しかし米軍が撤退するなか、ISが台頭し勢力を拡大すると、ジハーディストのカリフ制国家による戦略的な破滅を回避するため、オバマ氏はイラクに再び駐留部隊を派遣しなければならなくなった。トランプ政権下で米駐留部隊が再び撤退を余儀なくされる事態となった場合、オバマ政権がそうしたようにイランの怒りをなだめたいというのが理由であってはならない。

 トランプ氏は、イラクにおける米国のプレゼンスについて、ISやイランがコントロールする民兵組織によって脅かされているイラクの自由と独立を維持し、同国の主権を支援するためのものであることを明確にすべきである。イラクの大半の人々は、米国がISの打倒で決定的な役割を演じたことを理解しており、イランの植民地になりたいとは思っていない。

(The Wall Street Journal/The Editorial Board)