以前執筆した「美味しい葱油餅の話題が無味乾燥な防空識別圏の話に圧勝」という記事のように、小難しいテーマを美味しいグルメの話題に揉みこんで議論する作戦もやってみた。

 以前は、テレビ取材チームを連れて中国に行き、数カ月の時間をかけて『NHKスペシャル』などの大型番組の制作に携わるような仕事が多かった。日本を出る前、私はいつも一緒に行く日本人スタッフに、「これからは中華料理ばかりの毎日が始まる。私と一緒に行動する以上、麻婆豆腐(マーボードウフ)や青椒肉糸(チンジャオロース)といった、日本でよく見かけるような料理は注文しないので、期待しないでください」と宣言していた。そして、実際にそのように行動した。

「せっかくの中国取材なので、豊富な中華料理のメニューに触れてもらおう。これも取材の一環だ」というのは、私独自の論理だ。うぬぼれではないが、私との出張を通じて知り得た豊富な中華料理のメニューに感激した日本人スタッフは多かった。彼らの中国に対する認識も、その分広がりを見せたはずだ。

中国とのビジネスでも
強い武器となる中華料理

 中国湖北省の神農架の山奥に住まいを設けて、作家活動を続けながら、有機茶の栽培と販売をしている作家の古清生さんが、「臭覚と味覚を含む感覚は偉大な詩人として持ち合わせなければならない特質である。味覚のよくない詩人は絶対、偉大な美食家にはなれない」と指摘している。

 詩人だけではなく、実は中国ビジネスの現場に赴く日本人のビジネスマンに対しても、こうしたことが求められているのだ。中華料理のメニュー、食材などについてそれなりの予備知識をもっていれば、仕事先の関係者との間に共通の話題を持ちやすい。コミュニケーションもその分、スムーズに進むはずだ。

 さらに中国の物価、庶民感覚などについても皮膚感覚を養いやすくなる。イトーヨーカ堂は中国に進出した当初、「お客さまの接待は現地のレストランで、現地の予算感覚でやれ」と日本人社員に求めていた。おそらく同じことを意図した行動だったのだろうと思う。このような対応は、中国とのビジネスにおいて、まだまだ有効なのである。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)