携帯電話が鳴っている。

 ディスプレイを見たところで、呼び出し音が切れた。

 優美子からだ。ここのところ毎朝、優美子の電話で起こされる。

 午前5時12分。もう一度寝ようとしたところで再び鳴り始めた。

 森嶋は携帯電話のボタンを押した。

〈あなた、新聞は取ってるの〉

 いつも通り、挨拶もなしに用件が飛び込んでくる。

「新聞くらいは読んでる。一応、社会人だから」

〈東京経済新聞は。理沙さんのところよ〉

「頼まれたんだ。電子版だけど」

〈見なさい、急いだ方がいいわよ。私はこれから役所に行く。あなたも早く来るのよ〉

 電話は切れた。

 森嶋はパソコンを立ち上げた。

 新聞を開いた森嶋の目は釘づけになった。

〈政府、首都移転を計画か〉

 東京経済新聞一面の見出しだ。

〈近づく東京直下巨大地震、低迷する日本経済、下降する地方経済、東京一極集中を避けるために政府は首都移転を計画〉

 そしてその横に新首都模型の写真が載っている。構図に多少の不自然さはあるが、確かに長谷川設計事務所の首都模型だ。

 記事には、中心になっているのは最近新設された首都移転チームで、チームリーダーは村津真一郎であることが書かれている。その他の内容は、過去の首都移転準備室で発表されたことがほとんどだ。新しいことは何もなかった。しかし新首都模型の写真は説得力があった。

 急いでテレビに変えると朝のワイドショーのほとんどすべてが、東京経済新聞の首都移転の話題を取り上げている。しかし、情報はまだこの記事だけらしく、過去の首都移転準備室などの過去の話題を繰り返しているばかりだ。