「僕に聞いてもなんて答えていいか分からないですよ」
「何の権限もない、ただのヒラ官僚だったわね。じゃ、誰に聞けばいいの」
やはり森嶋は答えることが出来ない。
「そろそろタイムリミットだとは思わない。日本が沈没しかけているの。それなのに誰も有効な手立てを取ろうとしない」
理沙が森嶋を見つめて言った。新首都の模型のことを言っているのだ。たしかにその通りなのだが、はいどうぞとは言えない。
「このまま行くとどうなるんですか。銀行に人がつめかけてました」
「今現在も、世界では円が売られ日本国債が売られている。円は半年前の3分の2を切るでしょうね。すでに1ドル120円以上になっている。国債の金利も3パーセント台後半に上がってる。7パーセント台になると国家破綻の領域に入る。銀行はかなり慌ててるでしょうね。こんなことって戦後なかった」
森嶋はロバートの言葉を思い出していた。
「それを凌駕する新情報を流すことだ」
「円安になれば輸出企業にとっては都合がいいんじゃないですか」
「昔だったらね。それも適切な円安ならばね」
「今はダメなんですか」
「ここ数年の日本は輸出より輸入が著しく多くなってるのよ。貿易収支は赤字が続いててるの。このままいけば、資源輸入国日本にとっては大打撃よ。輸出企業といっても、その根本の資源は輸入に頼ってる。だからすべての材料費が高騰し、日本経済のあらゆるところに支障が出てくる」