確かにその通りだ。
東日本大震災の原発事故以来、日本では原発は次々に止められ、原油とLNGを使った火力発電が主流になっている。そのため発電所の燃料を含め、輸入超過がここ数年続いている。
「それより怖いのは、日本の銀行や証券会社までが円売りに走り始めたことよ。それに、日本企業の多くが本業以外に金融部門を持って、為替相場もやってるのを知ってるでしょ。社内の余剰資金を利用してね。バブル崩壊後は、多角経営でなきゃ、やってられないと思い始めた経営者が増えたのよ。ここ数日、この状態が続けば歯止めがかからなくなるでしょうね」
「理沙さんは、それを止めるのは首都移転の発表だというのですか」
「分からないわ。でも、その可能性はあると思わない。都市建設の直接資金のほかにインフラ整備、輸送費用、そして雇用も数万人単位で生まれる。そして何より、疲弊し切っている国民の意識を変えることができる」
「だから、首都移転計画を発表すると言うんですか」
「あなたならどうするのよ。このまま日本が沈没していくのを待つっていうの」
「僕にはそんな判断は出来ません」
「いつもそう言って逃げてる。だったら、誰が出来るのよ」
理沙は軽く息をついて森嶋を見つめた。
「新聞記者の使命は世の中の状況を正確に、迅速に広く知らせることよ。その正確な情報を理解して判断するのは国民の役割」
理沙も迷っているのだ。自分の判断の重要性を知っているからこそ、森嶋に相談に来ているのだ。
「理沙さん、ひょっとして――」
そのとき、理沙の携帯電話が鳴り始めた。
ディスプレイを見てスツールを降りると、店の外に出ていった。
森嶋は、店の前に立ち携帯電話を耳にあてて、話している理沙の姿を見ていた。10分ばかりして戻ってきた。
「ごめん。もう少し話したかったんだけど、社に戻らなきゃならなくなった。貴重なアドバイス有り難う。あなたと話せてよかった。この埋め合わせは必ずするからね」
言い残すと再び店を出ていった。
森嶋は理沙がタクシーを止めて乗り込むのを見てから店を出た。