百々 奇跡的なあの本が、こういう背景でできてきたことを知るのも、このオンライン対談の意義ですね。紙の本には、こんな裏話、絶対に載せないでしょうから。

――今回、100点以上の肖像画を入れたのも、哲学・宗教アレルギーのあるお客様に、少しでも哲学者・宗教家・文人の表情からにじみ出てくる“生きざま”を感じてほしかったんですね。発売前に、社内の教養書に強い編集者に読んでもらったら、こういわれました。

「ゲラを読んだら、各時代の哲学者・宗教家から、
“おまえに、俺たちの思想が理解できるか?”
と挑戦状をたたきつけられている気がしました。
いや~面白かったです!」

嬉しかったですね。
あと僕は、哲学者・宗教家の「生没年」をしっかり入れたいと思ったんです。
なぜかというと、『哲学と宗教全史』は、古代ギリシャから現代まで3000年超をカバーするので、今、読んでいるところが、どの時代なのか、その都度、立ち位置を知ることが大切だと思ったからです。
同じ思想家が出てきても、これだけの分量ですから、すぐ忘れそうでしたからね。
「分厚い本だと思ったけれど、
意外とスラスラ読めた」

という女性のお客様からの読後感をいただくことが多いので、嬉しかったです。

百々 それ、よくわかります。デカルト、カント、ヘーゲルなど、あの肖像画が効いています。なによりも流れがよくわかるのがいいですね。
あと、誰と誰が対立していた、誰の思想が誰に影響を与えたなど、
巻頭・巻末カラージャバラも
一目でわかる仕組み
になっていたのも大きいですね。

――大学受験時代に「世界史」を選択していた僕でも、哲学や宗教は、ほとんど体系的に習っていません。
日本の公教育カリキュラムの中で
忘れられた存在
が、哲学と宗教です。
これは対外的に見たら、致命的な欠陥のひとつかもしれません。
今、ビジネスパーソンの間で、「リベラルアーツの必要性」が叫ばれていますが、『哲学と宗教全史』が試みた、世界史を背骨に哲学と宗教を、同時に、体系的に見ていくアプローチは、日本人著者でほとんど見たことがありません。出口さんもおっしゃっていましたが、すべての学問がタコツボ化して、隣の学問すらわからないのが、今の日本の状況なのだと思います。

百々 そうですね。

――この本では、思想家同士の好き嫌いの人間模様が面白いですよね。好き嫌いを、哲学や宗教の世界に導入したらどうなるか。

百々 本当に。だから物語になる。