アスリートの腸内細菌に目を付け、解析を行っているベンチャー企業がある。社長は日本代表の経験も持つ元サッカー選手。食事や体作りに人一倍気を使っているアスリートの腸内細菌を多数解析し、そこで得た知見を基にサプリ開発も手がけるなど、ユニークな事業展開を行っている。

便は「茶色いダイヤ」
成長著しい腸内細菌ビジネス

サッカー選手たちアスリートの腸内細菌は一般の人と異なるばかりか、サッカーやラグビーなど各競技ごとの特徴があることもわかってきた Photo:JIJI

 最近、「腸内細菌」や「腸内フローラ」など、ヒトの腸にすむ菌に関する話題がにぎやかだ。腸内細菌はヒトの体内にいる代表的な細菌で、体の中には1000種類、100兆個いるといわれている。ビフィズス菌や乳酸菌など、菌種ごとに固まって存在し、その集まりのことを腸内フローラという。

 近年、次世代シーケンサーという遺伝子解析装置が登場し、この腸内フローラの解析技術が大幅に進展。腸内フローラのバランスが悪いと疾病を引き起こすリスクが高まることも分かってきた。

 そうした関心と技術の向上を受け、例えば、理化学研究所が認定するベンチャーであるサイキンソーは、ユーザーが自宅で採取した便を送ると、腸内フローラの種類や割合を分析し、改善のためのカウンセリングを行うサービス「マイキンソー」を展開。電機大手のコニカミノルタも、より安く短期間に腸内フローラのバランスを解析する「PonPon CODE(ポンポンコード)」というサービスの実証実験を始めている。

 また、ヒトの腸から採取した細菌を解析して有用な菌だけを培養し、製剤化する創薬も国内外で活発に行われている。こうした腸内細菌をはじめとする、体内の細菌を使った医薬品の世界市場は、最近芽吹いたばかりにもかかわらず、2020年代半ばには1兆円近くに急成長するという見方もある。

 こうして勃興する腸内細菌ビジネスに、競合他社とは全く異なる着眼点で挑む企業が、鈴木啓太社長が率いる「AuB(オーブ)」だ。鈴木氏の名前を見て、サッカーファンならピンと来たかもしれない。そう、彼は浦和レッズで長年プレーし、日本代表としても活躍した人物に他ならない。2015年に引退した後は驚きの転身を遂げ、今やベンチャー企業の社長として、日々忙しく事業を切り盛りする起業家の顔を持つ。

 では、その異例の着眼点とは何か。それはアスリートの“便”に注目し、ビジネス化しようという試みだ。いきなり便と言われても戸惑うかもしれないが、今や便は“茶色いダイヤ”と呼ばれるほど、腸内細菌ビジネスでは熱い視線を注がれている。現に欧米では、良好な腸内細菌が含まれる便を潰瘍性大腸炎を患う患者の腸に移植し治療する「便移植療法」が始まっている。米国には便が流通する「便市場」が形成され、移植のための便の売買が行われている。