こうした武漢脱出組の人々とは違って、武漢に帰るために四苦八苦していた逆行組の人たちもいる。たとえば、学校の冬休みが始まったのに合わせて、1月17日に子どもを連れて海外旅行に出た武漢出身の夫婦だ。その旅行は3カ月前に決められたもので、旅先はマレーシアのコタキナバルだった。

 しかし、旅に出て3日目、事態は急転直下を迎えた。悪い知らせが矢のごとく飛んでくる。そばには相談できる家族や友人がおらず、茫然自失の状態に陥った。スーツケースにある荷物を半分ぐらい捨てて、たくさん買ってきたマスクや消毒用品を詰め込み、家族や友人にあげようと思っていた。

「武漢市民は歓迎しない」
ホテルに缶詰めにされた夫婦

 23日に予定されていた帰りのフライトは、欠航となってしまった。旅先のホテルで春節を過ごすことになったが、敏感な子どもは「お母さん、ここのレストランは、武漢市民を歓迎しないとか書いていない?」とお母さんの耳元で囁いた。 女性は声を詰まらせて、彼の頭を撫でるだけだった。

 彼らは食事の時間を除いて、ずっと部屋にいて自己隔離を実施していた。大みそかの夕方、旦那さんに「おいしいものを少し仕入れてこようか」と提案したところ、機嫌の悪い旦那さんから断わられた。

 一方、武漢にいる母親からは、家の銀行カードの暗証番号などがSNSを通して全て送られてきた。その意味を悟った女性は、泣き崩れた。

 地元の中国領事館にも相談した。対応に出た領事館関係者は親切だったが、ただ、できるだけ早く自分で航空券を買って帰国し、他の都市にたどり着いてからそれからの行動計画を立てるよう、アドバイスされただけだった。