おそらくオリンピック、地方創生、成長戦略などで前向きな明るい話をメインにして、高齢者の負担増を伴う不人気な話は極力避けようと思ったのでしょう。しかし、この程度の中途半端な改革でも国民に正面からしっかりと説明しようとしないで、本格的な社会保障制度改革などできるはずがありません。

 しかし、それ以上に情けないのは野党です。枝野党首は、何より世間受けだけを狙って疑惑を追及したかったし、またその出来はともかく立憲民主党の政権ビジョンを宣伝したかったのでしょう。玉木代表は頭脳明晰な方ですから、さまざまな政策に万遍なく言及したかったのでしょう。

 それにしても、政府の全世代型社会保障改革の出来がこれだけイマイチで突っ込みどころ満載であるにもかかわらず、また国民の関心が間違いなく高いにもかかわらず、立憲民主党が代表質問全体の5%、国民民主党も2%しかこの問題に割いていないというのは、いかがなものでしょうか。

 もちろん、野党は政府の中途半端な改革内容でも厳し過ぎると主張するかもしれません。それでも、与野党が国会でしっかりと時間を使って論戦してこそ、マスメディアもこの社会保障制度改革の問題を取り上げ、専門家の主張も紹介されるようになるであろうことを考えると、野党が社会保障制度改革のプライオリティをこれだけ低くしているというのは、国民に対して非常に不誠実であると思います。

危機が来ないと
社会保障制度改革は進まないのか

 以上から明らかなように、抜本的な社会保障制度改革が不可欠と多くの人がわかっているにもかかわらず、政府与党の側が掛け声だけで痛みの伴う国民に不人気な厳しい改革を避け続け、そして野党がそれを正面から攻めないという体たらくを続ける限り、間違いなく抜本的な改革は進まないでしょう。

 やはりこの国では、危機が来ない限りは抜本的な改革は進まないのでしょうか。この情けない現実を見ていると、米国の「政治屋は次の選挙を考え、政治家は次の時代のことを考える」という名言を思い出してしまいます。

(慶應義塾大学 大学院 メディアデザイン研究科 教授 岸 博幸)