中間報告の内容は
大きな痛みを伴わない改革ばかり
人生100年時代に備えた全世代型社会保障検討会議の中間報告が公表された。この会議の目的は、労働市場や社会保障全般にわたる持続可能な制度への改革の検討である。
1つ目が高齢者に偏った社会保障制度の見直しで、消費税を財源とした「幼児教育・保育や高等教育の無償化」が盛り込まれた。2つ目は、高齢者が社会保障の支え手となるための「70歳就業の法制化や兼業・副業の環境整備」である。そして3つ目に挙げられるのが、「年金の受給年齢の選択肢の拡大」と75歳以上の医療費負担を経済力に応じた仕組みにする等の「医療制度改革」である。
人口高齢化に対応するための基本は、「年齢にこだわらない(Age free)」社会の構築である。20歳前後で新卒一括採用され、年齢に応じた賃金で働き、60歳で定年退職という年齢に縛られた日本の働き方は、高齢者の急速な増加の下で機能不全に陥っている。
また、過去の高度経済成長期に、急速に豊かになる勤労世代と比べて「貧しい高齢者」の救済に重点を置いた社会保障制度も、豊かな団塊の世代が70歳代に突入する現在では、むしろ世代間の不公平を助長する要因となっている。
こうしたなかで中間報告の骨子は、総論としてはもっともな内容だが、その具体的な検討課題を見ると、いずれも「大きな痛みを伴わない改革」という共通点がある。他の先進国と比べ、膨大な政府債務残高を抱えており、急速な少子高齢化に直面する今後の日本で、果たして現行制度の抜本的な改革に踏み込まずに済むのだろうか。今後、10%を超える水準の消費税の引き上げは行わないのであれば、1980年代の中曽根内閣と同様な「増税なき社会保障の再建」が基本路線となるが、その覚悟はとてもうかがえない。
以下では、本報告に書かれた内容と比較しながら、本来、検討されるべきであった4つのポイントについて示したい。
75歳以上「2割負担」では解決しない
医療改革に欠けている視点とは
医療制度改革では、75歳以上患者の窓口負担率や紹介状なしで大病院を受診した場合の患者負担額の引き上げ等、値上げ路線を軸としたものにとどまった。しかし、そうした患者の自発的な受診抑制だけで、高齢化で傾向的に増える医療費負担に対応できるのだろうか。
今回の75歳以上の自己負担率の2割への引き上げは、現行の70~74歳と同じ水準に合わせただけである。すでに現役並みの所得者(年収370万円以上)は一律に3割負担となっており、それを下回る所得水準の者についても、元々、なぜ年齢で差をつける必要があったのか疑問である。「年齢にこだわらない社会」であれば、患者の自己負担は、年齢ではなく、その所得水準に応じて減免すべきものといえる。