金融不安解消の切り札の賞味期限は2日間だった。米国政府が7000億ドルを用意し、不動産担保ローン関連を中心とする不良債権を買い取ると大々的に打ち出した対策の効果である。
公的資金投入による不良債権買い取りが報道された18日、そして翌19日こそ、買取策が好感されニューヨークダウは上昇したが、20日に正式に発表された後の22日、23日とダウは続落した。
わずか2日でメッキがはげてしまったのはほかでもない。その実効性に疑問があるからだ。
まずは、買い取り額の規模だ。2006年末現在で米国の不動産担保ローン残高(証券化分を除く)は約10兆ドル。住宅ローン担保証券の残高は6兆ドル弱ある。合計額の4%に相当する買い取り枠で間に合うとは考えにくい。
そして、買い取り価格と買い取りの手法である。
買い取り価格については、満期保有を前提とするとされている。その水準は、金融機関が市場で投げ売りする価格より上になるとは想定されるが、政府としては納税者の負担を最小限にとどめなければならない。
「金融機関が損失を出さないですむ売却価格にはならない」(中川隆・大和証券SMBC金融市場調査部次長)だろう。
売却で損失が生じるとすれば自己資本が毀損する。ここで問題となるのが買い取りの手法だ。
「破綻後に買い取った1990年代前半のS&L(貯蓄金融機関)のケースと違い、今回の買い取りは破綻前の金融機関からであり、金融機関から売却の入札を受ける方式を取る」(石原哲夫・みずほ証券シニアクレジットアナリスト)ことになる。
当然といえば当然のことながら、少なくとも損失を穴埋めできる当てがなければ、自ら進んで不良債権の売却に踏み切るとは考えにくい。資本不足に陥るのは必至だからだ。
しかも、現時点で不良債権を多く抱えていると目される金融機関が、増資に踏み切るのはきわめて困難な状況にある。増資を引き受けてくれた相手先はすでに株価下落で損失を抱え込んでいる。
加えて、議会の修正で金融機関にさらに腰を引かせる条項も加わった。それは売却に応じる金融機関は新株引受権を政府に渡すというものである。不良債権を売却した金融機関が経営再建に成功した際には株価も上昇する。その時点で政府が引受権を行使し利益を得て、国民負担を抑制しようというわけだ。
だが、将来の株式の希薄化を強制されるとあっては、不良債権売却に二の足を踏ませる。
結局のところ、買取策法案が議会を通過しても機能しない可能性が高い。いずれ市場は株価下落を通じてさらなる対策を米国政府に催促する。「それは金融機関への公的資金投入による資本拡充策にほかならない」(藤岡宏明・大和証券SMBC金融市場調査部次長)。それまでは金融不安は収束しない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 竹田孝洋)