アップルの幹部は何年も前から「アップルにはもう1つの中国が必要だ」と言っていたが、新型コロナウイルスはその主張に新たな意味をもたらしている。
新型コロナウイルス感染症の急拡大とそれがもたらしている混乱で、アップルは改めて世界最大の人口を持つ中国への依存を試されている。同国はアップルにとって重要な消費者市場であるだけでなく、世界で販売される大半のiPhone(アイフォーン)やiPad(アイパッド)、Mac(マック)の製造拠点でもある。
中国は感染拡大を受け、先週末に春節(旧正月)休暇が終わったあとも多くの工場を閉鎖している。アップルと同社端末の最大の製造業者である富士康科技集団(フォックスコン)によると、生産再開は10日遅れの2月10日になる予定。しかし、アナリストや製造会社幹部は、企業への影響が工場閉鎖にとどまらない兆しが見え始めていると話す。アナリストによると、アップルの1-3月期のiPhone出荷台数は感染拡大前の予想を5~10%下回る見通しだ。
アップルの広報担当者はコメントを差し控えた。
中国本土でコロナウイルスによる感染が確認されたケースは2万8000件を超え、死者は560人余りに達した(中国本土以外の死者は2人)。これは2002~03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)による中国本土の死者(349人)を超えている。中国は流行を封じ込める大胆な措置を引き続き講じているが、いずれも世界中の企業の生産継続に向けた取り組みを複雑にしている。
こうした不確実性は中国経済に破壊的な影響をもたらしている。感染拡大を抑えるため、一部の地方政府は住民に通勤を控えるよう要請している。また、食料や日用品の買い物に出掛ける人数を1家庭で1人、回数を2日に1回に制限している地域もある。
アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は近年、中国に関わる多くの難題を首尾よく切り抜けてきた。
昨年は中国経済の減速と現地メーカーとの競争激化がiPhoneの販売に打撃となり、アップル株は一時10%下落したが、新端末を巡る市場の期待を受けて上昇に転じた。また、米中の関税戦争が18年からアップルに影を落としていたが、クック氏はドナルド・トランプ米大統領を説得し、iPhoneを追加関税から除外させ、 深刻なダメージを回避した。
「トランプ関税よりも影響大きい」
フォックスコンの元テクノロジー事業部門幹部ダン・パンジカ氏は、10日の生産遅れは残業で取り戻し得ると述べた。しかし、組立工場向けの部品やコンポーネントの出荷は抑制されかねず、春節休暇で里帰りした労働者も感染を警戒して戻ってこない可能性があるという。
パンジカ氏は「これはトランプ関税よりもはるかに影響が大きい」とし、「あのときはモノを動かせたが、今は動かせない」と述べた。
アップルは生産拠点を多様化していないため、感染拡大で最も影響を受けやすい外国企業の1つとなっている。近年はiPhoneの組み立てをベトナムなど中国以外の場所で行うことも検討したが、設備やトレーニングコストが高すぎることから、大半の製品を中国から輸入する方針を変えなかったとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は以前報じた。
アップルは一部のiPhoneをインドで製造しているが、同国は輸入品に高関税をかけているため、ほとんどが国内販売向けだという。
販売台数で世界1位のスマートフォンメーカー、韓国のサムスン電子は昨年、中国でのスマホ生産を段階的に打ち切り、インドやベトナムなどに移行。1年かけて拠点を多様化した。