高まる
世界経済の不安要素

 新型肺炎の感染拡大は、日本をはじめ、世界経済全体にとっても無視できない不確定要素と考えるべきだ。日本企業では、外食大手の和民が中国撤退を決めるなど、かなりの影響が出ている。時間の経過とともに治療法が発見されるなどし、感染が食い止められる可能性はある。ただ、2月上旬の時点で考えると、先行きは慎重に見たほうがいいだろう。今も感染は拡大しており、感染源など不明な点も多いようだ。

 世界各国の個人消費や生産、投資への影響に加え、新型肺炎が米中の通商交渉の先行きを一段と見通しづらくしていることも見逃せない。1月15日、米中は第1段階の通商合意に関する文書に署名した。合意の一部として、中国は今後2年間で米国から2000億ドル(約22兆円)のモノやサービスを購入すると約束した。

 2017年、米国から中国への輸出は1863億ドル(約20兆円)だった。景気が減速する中で中国が本当に米国からの輸入を2年で2000億ドルまで上積みできるか、当初から疑問視する市場参加者や経済の専門家は多かった。新型肺炎によって中国の消費、物流などに甚大な影響が及ぶ中、中国が第1段階の合意内容を履行できるか否か、不確実性は追加的に高まっている。

 大統領選挙を控える中、米国の政治家が各国との通商関係を問題視し、支持を取り込もうとするのは恒例行事だ。中国の感染対策の不手際の対する批判なども重なり、米国が中国への強硬姿勢を鮮明にするのであれば、習氏も求心力維持のためにハードラインをとらざるを得ないだろう。それは、米中の通商摩擦を激化させ、世界的なサプライチェーンの混乱などに拍車をかける恐れがある。

 加えて、中国の生産活動の鈍化はアップルなど米国企業の業績を下押しし、雇用・所得環境の悪化要因となることも考えられる。そうした展開が鮮明となれば、底堅く推移してきた米国の個人消費に支えられて落ち着きを保ってきた世界経済全体の安定感は揺らぐだろう。今すぐそうした展開が現実のものとなるとは考えづらいものの、新型肺炎の感染拡大は、世界経済を混乱させるリスク要因の一つとして冷静に考えていく必要があるだろう。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)