2019年11月に刊行された『共感資本社会を生きる』が若い世代を中心に、じわじわと反響を呼んでいる。著者の新井和宏氏(株式会社eumo代表取締役)と、高橋博之氏(株式会社ポケットマルシェCEO)は、今の世の中で生きづらさを抱える人々の根底にあるのは、「選択肢」がないことだと指摘する。経済合理性を追求する社会のかげで、規格外の烙印を押されて置き去りにされてきたものは、少なくない。2019年11月26日に仙台市で開催された刊行記念クロストークでは、「お金」と「食」というそれぞれ違うフィールドから、「共感資本」でつながる社会に変えていこうとしている新井氏と高橋氏に加えて、渡部哲也氏(株式会社アップルファーム 代表取締役)と、矢部亨氏(株式会社矢部園茶舗 代表取締役社長)をゲストに迎えて4人でのトークが繰り広げられた。障害者とともに農園直営のレストラン事業を営む渡部氏と、お茶の生産農家と日々向き合う矢部氏は現場で日々感じている想いを交えながら、「多様性」や「経済合理性」「関係性」を問いかける。(構成:高崎美智子)

経済合理性の「真逆」に挑む

矢部亨氏(以下矢部):私は仙台から東に16km離れた塩竃市で、「矢部園茶舗」というお茶の会社を営んでいます。よろしくお願いします。

渡部哲也氏(以下渡部):私は仙台の若林区で「自然派ビュッフェレストラン 六丁目農園」という野菜のレストランを経営しています。東日本大震災の前年から多くの障害者の社員とともに野菜を作る取り組みを始めて、9年になります。「多様性」といわれますが、さまざまな障害を持っている方と働くことが日常になると、多様性があたり前の世界になります。世の中にある画一的なものや、AIや効率化などと対極のところで生きていますが、おかげさまで今まで私たちが取り組んできたことに、ようやく社会が追随してくれる時代になってきたかなと。そんな気持ちで日々、おいしいものを作る努力をしています。よろしくお願いします。

新井和宏氏(以下新井):矢部園茶舗さんと六丁目農園さんは、素敵な事業をされていますね。どちらのお店もeumoが使えます。

渡部:うちは通常のレストランにはないものをeumoで提供させていただいています。障害者とともに生産加工販売の現場を知ってもらう体験です。障害者の方と一緒に畑で作業して、収穫した野菜をレストランで食べることができます。

新井「多様性マネジメント」といわれるなかで、六丁目農園さんは、障害者の方のそれぞれの個性や状況の違いを尊重しながら、それに合わせたマネジメントをされています。その現場をお客様に体感していただくことで理解を深めあう。障害者の方とともに、同じ時間を共有する機会はなかなかないですよね。畑で一緒にお手伝いしながらいろいろなことに気づき、お互いの人間的な成長にもつながればと思います。

 一方の矢部さんは、製茶販売の会社をされています。実は、お茶農家さんたちが大変な思いをされている現状があります。大手飲料メーカーが「まとめて買うから安くしてほしい」と買い叩くわけですよ。このままでは、お茶農家さんはコスト低下圧力に疲弊して食べていけなくなります。矢部さんはおっしゃっていました。「お茶は工業製品じゃないんだ」と。自然との関係性のなかでつくるものだから、天候にも左右されます。そんな簡単なものじゃない。

 経済合理性によって日本は経済成長を遂げてきましたが、それが限界にきているのも事実です。すでにコストカットは徹底的にやり尽くしたのに、まだ続けようとしていることが問題ですよね。だから、ストレスを抱えたり、病気になってしまう。

渡部:私はずっと飲食の仕事をしてきました。飲食店のなかで経済合理性といえばファミリーレストランですよね。冷凍の食材をレンジでチンして提供し、人件費もなるべく抑えるためにプロの料理人はいらないわけですから。経済合理性の行き着く先は、価格競争しかない。お客様もそういう味に飽きているようですね。

 私たちのレストランはすべて手作りです。料理の食材もすべて手で切っています。1700円前後の価格帯で、毎日150人も来るお店で、そういうことをするレストランはないと思います。小さなお店や、ミシュランの三ツ星ならばあるかもしれませんが。私たちは障害者とともに、経済合理性と真逆のことを飲食業界で取り組んでいます。でも、結果から見ると、実は合理的なんです。広告費を一切使わなくても、お客様にずっと来ていただいていますから。この業態はブルーオーシャンなので、ライバル店がいません。おかげさまで9年間、高単価で安定経営しています。私の場合は身内に障害者がいて、志のある農家さんと出会い、障害者の力を活かしながらいいものを作りたいと思ったことが現在の取り組みにつながっています。

新井:経済合理性に立ち向かうというか、嵐になっても抵抗しているのが私たち4人ですね。