「関わりの力」が未来を変える

高橋:僕は関わりの力って本当にすごいと思います。新井さんも障害を持ったお母さんがいらっしゃるとお話されていましたが、僕の亡くなった姉も障害者でした。身近なところに障害者がいたので、同じような人がいると、ほっとけない。おせっかいを焼きたくなるんですよね。だから僕は今、こういう生き方をしていると思います。

「ありんこには、ありんこの戦い方がある」経済合理性の限界を打ち破る「関係のちから」渡部哲也(わたなべ・てつや)=写真右
株式会社アップルファーム 代表取締役。1968年生まれ。飲食店を中心に障害者の戦力化を計り、経済的自立を支援する障害福祉サービス事業を行う「株式会社アップルファーム」代表のほか、「東北復興プロジェクト」の代表理事も務める。自身が経営する「六丁目農園」は6次産業化のビジネスモデルとして注目され、毎日超満員の繁盛レストランとして地元仙台に多くのファンを持つ。
新井和宏(あらい・かずひろ)=写真左
株式会社eumo 代表取締役/鎌倉投信株式会社 ファウンダー。詳細なプロフィールはこちら

新井:さっき渡部さんが自分の家族に障害者がいるという話をされたじゃないですか。僕もいる、私もいるとなると、やっぱり共感しますよね。共感する原動力は、その人の生きている意味や正直な想いに触れること。お互いのスイッチが入る瞬間って、本当の自分に触れた時です。

高橋:矢部さんがおっしゃったように、生産者が子どもを育てる経済力もないまま、消費者のかわりに額に汗して食べものを作っている現場に行くと、本当に理不尽だと思います。食べものを作る人が食べられないという現実があるわけですから。

 一方で、関わりの力で乗り越えながら農業をしている人たちもいます。山形のある果樹農家さんは、祖父の代から農家で、毎年注文をしてくれる常連のお客さんがいるそうです。ある年の冬に霜で作物が全滅したので「すみません、今年は送れるものが何もありません」と連絡をしたら、「商品がなくてもいいよ」と、いつもと同じ金額を振り込んでくれたお客様が10人ほどいたそうです。「たしか、お子さん小学校に入る年だったよね。これでランドセルを買ってね」と。

 その果樹農家さんは年に2回、家族の近況報告を常連のお客さんにしていました。お客さんも自分が払ったお金で子どもたちが成長していくような感じなので、他人事じゃないんですよね。

渡部:僕はいつも「惻隠の情(そくいんのじょう)」という言葉を思い浮かべます。人間であるとは何か? それは人の悲しみに寄りそえること。誰にでも内面に抱えた辛い思いは必ずあると思います。障害者は少なからず虐待を受けていたり、家族や社会に必要とされていないと思っていたりする。そこにどう寄りそうか。僕は200人の社員のみなさんと一緒に仕事をしてきたおかげでいつもこのことを学んできました。地域や仕事や年齢やLGBTなどに関係なく、どう寄りそうことができるか。気持ちの初動が大事だと思います。

新井:僕がeumoを立ち上げるか決めかねていた昨年6月、サッカーのワールドカップ大会でアイスランドが活躍したんですよね。アイスランドの人口は、約33万人です。33万人でひとつの国や通貨が成り立っている。その単位ならば、日本でもできるんじゃないかと。すべてを変える必要はなくて、信頼と共感のネットワークで33万人が集まれば、ひとつの経済を動かすことができるんですね。僕はそのなかでみんなが幸せに暮らしていける仕組みづくりを10年かけてできるならばいいと思いました。高橋さんには10年じゃ遅いと言われるけど。

高橋:33万人ならば届きそうな気がしますね。

新井:みなさんも共感のコミュニティを持っていますから、それをつないだらきっと33万人ぐらいにはなりますね。

高橋:なるほど。盛岡市の人口が約30万人ですからね。

新井:33万人という数字は、たとえばの話で、みなさんのなかでイメージが固まればいい。同じ志を持って、いい社会を作りたいと思う仲間が集まればいいんです。それだけでひとつの貨幣のコミュニティは成り立ちますから。失敗をしないために必要なことは、「諦めないことを決めること」です。諦めないことを決めたら、失敗は発生しないんです。やめないから。この4人は諦めないことを決めていて、そこに覚悟があるから、やっていることは違っても同志だと思えるんです。

「ありんこには、ありんこの戦い方がある」経済合理性の限界を打ち破る「関係のちから」

(終わり)