プロは「勝つだけ」ではいけない

 僕がプロゲーマーとしてやらなければいけない仕事は、勝つことだけではありません。画面を通じて対戦の面白さを知ってもらうことです。何を面白いと感じるかは人それぞれですが、やはり画面上で何らかの「対話」がある試合の方が盛り上がります。格闘ゲームは戦いであり、コミュニケーション。それは相手があって成立するコミュニケーションです。僕は岬さんに勝つ方法を教えようとはしたけれど、ゲームの面白さ、楽しさを伝えることはできていなかった。彼自身がゲームに向き合う姿から、僕はゲームの本質を教えてもらったのです。

 この話は、僕にとって単なるきれいごとではありません。僕はいつだって勝ちたかったし、強くなりたかった。そんな思いが強すぎて、かえって勝てなくなってしまいました。本質的な遊びや自由に欠けていたからです。勝利一直線の考え方、自由のなさは、脆さも含んでいます。

 「コミュニケーション」「相手と向き合う」「自分の都合だけで対戦は成立していない」─。勝てなくなるまで、そういうことを考えたことがありませんでした。学ぶ順序は人それぞれですが、岬さんは、初めからそれがわかっていたことになります。