「直接性」で問題を解決する

「直接性」(身につけたいスキルを、実際に使う状況や文脈と結びついた形で学習を行うという発想)は、2つの形で転移の問題を解決する。

 第1に、これは明白なことだが、ある知識やスキルを、それを最終的に活用したい文脈において直接学習すれば、かけ離れた領域の間で転移を行う必要性が著しく低下する。

 100年もの間、転移の難しさを示す研究が行われてきており、また教育機関が持続的な結果を生み出すのに失敗していることを考えると、学生たちは「学んだ内容を学習時とは大きく異なる文脈や状況に移すことは危険である」という点を真剣に考えなければならない。

 ハスケルは、学習が「場所や対象物に溶接されている」と言及しているが、もしそうなのであれば、実際に知識やスキルを使用する状況に近い場所で学習を行う方がずっと良いだろう。

 第2に、直接性は遠い領域に転移させる必要性を減らすだけでなく、新しい状況への転移を行う際にも役立つと私は考えている。

 個人的な例を挙げると、言語学習プロジェクトにおいて最も重要だったスキルの1つは、携帯電話で辞書や翻訳アプリを素早く使えるようになることだった。それによって私は、会話の途中でも言語知識のギャップを埋めることができた。

 しかし、言語学習のカリキュラムではほとんどカバーされていないのが、まさにこの種の実践的スキルである。

 これは些細な例だが、実生活には、学問として学んだテーマを実社会に応用しようとする場合に必要な、何千ものスキルや知識が存在しているのだ。

 究極的には、転移という「教育における聖杯」が現実に存在するのか否かは、研究者が決めることになるだろう。

 一方で、私たちは学習者として、最初に行う学習が、それが実施される状況と密接に関係したものになりがちであることを認めなければならない。

 授業でアルゴリズムを学んだプログラマーは、そのアルゴリズムをいつコードの中で使うべきか理解するのに苦労するかもしれない。

 ビジネス書から新しい経営哲学を学んだリーダーは、結局、従業員と同じアプローチで仕事をするかもしれない。

 私がお気に入りの事例は、友人が私をカジノに誘ってくれたときの話だ。私は彼らに、勉強するとギャンブルなんて楽しめなくなるんじゃないかと言ったのだが、彼らはその言葉を聞いてぽかんとした表情を浮かべた。

 なぜ私がこんなことを言ったのかと言えば、彼らがアクチュアリー(保険数理士)だったからだ。この職に就くには、何年も教室で統計学を学ばなければならない。

 そこで得た知識は、ギャンブルで胴元に勝つことはできないと彼らに気づかせてくれるはずなのだが、彼らは知識と現実を結びつけてはいないようだった。

 したがって、何か新しいことを学ぶ場合には、それを実際に使う文脈に直接結びつけるように常に努力しなければならない。

 現実世界の中において知識を構築することは、「何かを学び、そしてそれを将来的に、現実の文脈に転移できるように願う」という伝統的な戦略よりもはるかに望ましいのである。

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(本原稿は、スコット・H・ヤング著『ULTRA LEARNING 超・自習法』〈小林啓倫訳〉からの抜粋です)