言葉とは何か?それについて考えたことはあるだろうか。人間は言葉があるから、コミュニケーションをとり、心を伝えあうことができる。情報や、感情や、思いを、声に出して伝えたり、文字に書いて伝えたり。しかし、それだけだろうか?
ダイヤモンド社より『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』を刊行するコピーライターの阿部広太郎氏には、鮮烈な体験がある。自分の常識の狭さを思い知ってしまった体験だ。言葉には、様々な姿があるのだ。

Photo: Adobe Stock

文字だけが言葉じゃない

2017年のことだ。
ソーシャルエンターテインメント「ダイアログ・イン・サイレンス」というイベントが新宿のLUMINE 0で開催されることになった。
まったく音のない世界を、聴覚障害者のアテンドの方が案内してくれる。参加者は、音を遮断するヘッドセットを装着。静寂の中で、集中力、観察力、表現力を高め、解放感のある自由を体験していくというイベントだ。
日本での初開催にあたり、僕は広告制作に携わることになった。
まずは、静けさの中の対話をつくりだす、聴覚障害者のアテンドの方たちを募集する広告をつくることに。
総合プロデューサーの志村季世恵さん、1999年の初開催以降、日本では22万人以上が体験している「暗闇の中の対話」を主宰するダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表の志村真介さん、そして監修で入られていた中途失聴者の松森果林さんを中心に打合せを進めていく。
聞こえない方と仕事でご一緒するはじめての経験だった。
手話通訳士の方を介して、または、パソコンをモニターにつなげて、カタカタと文字を打ちながら、筆談をする要領で伝え合っていく。
打合せの中で、何の気なしに僕はこんな発言をしてしまった。
「イベントの中では、言葉を使わないってことですもんね」

松森果林さんは言った。
「阿部さん、手話も言葉ですよ」

ドキッとした。ショックだった。自分自身に対して。傷つくと気づくは言葉の響きが似ているけど、その心の痛みで、自分の凝り固まった価値観に気づいた。
僕の当たり前が、世界の当たり前じゃない。
イベントの中では、手話を使うシーンも出てくる。
僕はそのことを知っていたのに、書く言葉、話す言葉、歌う言葉、普段自分が使う言葉が言葉のすべてだと思ってしまっていたのだ。
考えてみれば、「ボディーランゲージ」は直訳すればその通り「体の言葉」だ。手話は「手の言葉」だし、目を合わせて、微笑むその表情だって「顔の言葉」だ。文字で書いたり、口で話したり、それだけが言葉じゃない。