夏目漱石は「I LOVE YOU」を「月が綺麗ですね」と訳したという都市伝説がある。
その真偽はさておき、「愛してる」と言わないで「愛してる」を伝える言葉を考えることは、コピーライティングのトレーニングの上でとても役に立つという。
ダイヤモンド社より『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』を刊行するコピーライターの阿部広太郎氏は、講座の最初にいつもこの課題を用意する。
その訳し方は十人十色。それぞれの人が向き合ってきた「愛」の形が垣間見えて、非常に興味深い。さて、あなたなら何と訳すだろうか?
「I LOVE YOU」の訳し方は十人十色
「月が綺麗ですね」とでも訳しておけ。
英語の教師をしていた夏目漱石。
「I LOVE YOU」を「我君を愛す」と訳した教え子に対して、そう言ったとされる都市伝説がある。
僕はこの話が大好きだ。
コピーライター養成講座はもちろん、全国各地の学校で、コピーの書き方の講義をする時に、「今のあなたなら何と訳しますか?」とお題を出す。
すると、さっきまで言葉を考えるなんて僕には関係ない、コピーを書くなんて私には自信がないという顔をしていた人も、どうしようと言いつつ、目に力を持って、いきいきと考えはじめるのだ。
駆け出しの頃、僕はこんな訳し方をした。
「あ、消しゴム落ちたよ」
こんな情景を思い浮かべていた。
学校の教室。隣の席に気になる子がいる。気軽に話し掛けられるほど僕は積極的でもない。その子の動きをちらちらと目で追い掛けてしまうし、少しでも異変があればすぐに気づく。
愛とは「あ、」だ。
気づくことではないか。
消しゴムが落ちたら、いち早く拾う、そしてすぐその子に渡す。その情景を思い浮かべて、慣れないながらもそう訳したことを今でもよく覚えている。
今のあなたなら何と訳すだろうか?
「I LOVE YOU」の訳し方には、その人の「らしさ」がにじみ出る。