「日本に財政破綻があり得ない」ことは財務省も認めている
――もしも、現実の経済政策に影響を与えている主流派経済学が大きな間違いを犯しているとしたら、一大事です。しかし、「主流派経済学の理論が基盤から崩れ去る」と聞くと、やはり「まさか」という気がします。そこで、改めてMMTについてご説明いただけませんか? そして、私の素朴な疑問にお応えいただきたいのです。
中野 わかりました。誤解を恐れずに、MMTを最も手短に説明するとこうなります。日英米のように自国通貨を発行できる政府(中央政府+中央銀行)の自国通貨建ての国債はデフォルトしないので、変動相場制のもとでは、政府はいくらでも好きなだけ財政支出をすることができる。財源の心配をする必要はない、と。
経済学の世界では、よく「フリーランチはない」と言われますが、国家財政に関しては「フリーランチはある」んです。自国通貨発行権をもつ政府は、レストランに入っていくらでもランチを注文することができる。カネの心配は無用。ただし、レストランの供給能力を超えて注文することはできませんけどね。
――いきなり、強烈な違和感が……。「政府はデフォルトしないから、いくらでも好きなだけ財政支出できる」と聞くと、やはり抵抗を感じます。政府やマスコミはずっと「これ以上財政赤字を増やしたら、財政破綻する」と言い続けていますし、多くの国民もそう思っているはずです。
中野 まぁ、そうですね。それが社会通念でしょう。でも、「日本政府はデフォルトしないから、いくらでも財政支出できる」というのは、MMTを批判する人々も同意している、あるいは同意できる、単なる「事実」を述べているにすぎないんです。
――単なる事実? しかし、「GDPに占める政府債務残高」は240%に近づいており、主要先進国と比較しても最悪の財政状況です(図1)。これも厳然たる事実ですよね?
中野 ああ、これはよく見るグラフですね。たしかに、「GDPに占める債務残高」は深刻な財政危機に陥っているギリシャやイタリアよりずっと悪くて、日本はダントツの最下位です。
だけど、それっておかしな話だと思いませんか? むしろ、このグラフを見たら、こう考えるべきなんです。なぜ、ダントツで最下位の日本ではなく、ギリシャやイタリアが財政危機に陥ってるのか、と。日本とギリシャが同じならば、日本の財政は2006年くらいの時点でとっくに破綻してなければおかしいじゃないですか?
――たしかに、そうですね。なぜ、そうなっていないんですか?
中野 簡単な話で、ギリシャとイタリアはユーロ加盟国で、自国通貨が発行できないからです。かつて、ギリシャは「ドラクマ」、イタリアは「リラ」という自国通貨をもっていましたが、両国は自国通貨を放棄して共通通貨ユーロを採用しました。そして、ユーロを発行する能力をもつのは欧州中央銀行だけであって、各国政府はユーロを発行することはできません。
だから、ユーロ建ての債務を返済するためには、財政黒字によってユーロを確保するほかなく、それができなければ財政危機に陥ります。自国通貨発行権をもつ日本とは、まったく状況が異なるのです。
――では、2001年に財政破綻したアルゼンチンは? アルゼンチンには「アルゼンチン・ペソ」という自国通貨がありますよね?
中野 アルゼンチンの場合は、外貨建ての国債がデフォルトしたのです。外貨建て国債の場合には、その外貨の保有額が足りなければデフォルトします。
しかし、日本は、ほぼすべての国債が自国通貨建てですから、自国通貨を発行して返済にあてればいい。なんらかの理由で、「返済しない!」と政治的な意思決定をしない限り、デフォルトすることはあり得ない。実際、歴史上、返済の意志のある国の自国通貨建ての国債がデフォルトした事例は皆無です。
――そうなんですか?
中野 ええ。これは財務省も認めていることで、2002年に外国の格付け会社が日本国債の格付けを下げたときに、財務省は「日・米など先進国の自国建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。」という反論の意見書を出しました。いまも、財務省のホームページに載っています。つまり、MMT批判者も、「自国通貨を発行できる政府の自国通貨建ての国債はデフォルトしない」という「事実」は受け入れているはずなんです。